麻野勝稔先生の長逝を悼む。
- 2023/04/01
- 18:00

先日、木藤謙さんよりメールで麻野勝稔先生の御逝去を知らせて頂いた。1月31日のことで、享年94歳という。先生は昭和30年頃に尚聖館に入門されているので、天台易学塾時代の入門者を第一世代とすれば、第二世代ということになろうか。四半世紀を越えて紀藤先生に師事した人はそう多くなかったらしく、広瀬宏道先生よりも門人としてのキャリアはずっと長かったようである。もともと公立中学校で数学を教えておられて、進路指導か何...
見えざる手
- 2023/03/09
- 18:19

『実業』1924年11月号に「易から観た支那動乱」と題した小玉呑象の時事占が掲載されているのだが、得卦も判断も詳細に記述されていて、ニセ高島ではないモノホン高島の高弟であった小玉呑象の後出しでない占を検討する格好の材料を提供してくれている。「九月八日朝、支那の各方面に動乱の兆候があって・・・」で始まる此の小文は、第二次奉直戦争勃発直後に著わされたもののようだ。生憎、支那の近代史に詳しくない為、ウィキペデ...
宮人を以て寵せられる
- 2023/03/07
- 18:01
昨夏、第八回のオンライン講座にて剝卦を解説した際、此の分野では御多分に漏れずと言うべきか、呑象の鍼治占を引いて御話することとなった。増補版『高島易断』を出典とする言わずと知れた占例で、読者諸賢には今さらの説明など不要であろうが、簡単にあらましだけ申せば、明治14年春に横浜の森錠太郎という外商の書記が腹痛を訴えて内外の医師の診察を受け薬を服用するも治らず、いよいよ危険な状態となった為、呑象に一筮を乞う...
主爻ノ意ニシテ
- 2023/03/05
- 10:54
昨年は講座の参考として『高島易断』を再読する機会を持ったが、必要に迫られないと中々通読し難い分厚さの書物を嫌々とはいえ読破するのは矢張り最後は自身の為にはなるという当たり前の事実を痛感させられる。再読によって感心させられたことは多々あるけれど、具体的に言えば、増補版『高島易断』の地雷復上六に附された占例等も其の一つ。もっとも感心したのは占例そのものというより、卦爻辞の捉え方と言うべきで、この占例は...
易の失は賊
- 2023/02/19
- 10:38
『礼記』の経解第二十六に、「詩の失は愚、書の失は誣、樂の失は奢、易の失は賊、禮の失は煩、春秋の失は亂なり」とあって、新釈漢文大系本の通釈は「詩経は人を愚(単なるお人よし)にし、書経は人を誣(ほら吹き)にし、楽経は人を奢(嬌慢)にし、易経は人を賊(反社会的)にし、礼経は人を煩(礼儀に口うるさいこと)にし、そして春秋経は人を乱(口才や文才にまかせて放縦)に流れしめるのである」と口語訳している。新釈漢文...
貞疾・恒ありて死せず
- 2023/02/13
- 18:01

「貞」字の原義が卜問であることは今では明らかであると言って良いが、卦爻辞は『易』の著者が書き上げたものではなく、古い卜辞や御神籤の類を素材として配列したもの(内藤湖南や其の系譜に連なる学者の立場)とすれば、素材の原著者が想定していた意味と、『周易』として纏めあげた、いわば配列者の理解とは同一でなかった可能性もあるという風なことを考えていた時期がかつてあったが、『易学研究』昭和41年6月号巻頭の「続々...
儒的な読卦
- 2023/02/10
- 18:11
本来卜筮のテキストであったものを儒家が経書として読み替えたのが『易経』で、以降二千年以上に渡り、儒家者流の注解が経文上に夥しく堆積して今に至る。しかし、単なる占いのテキストを倫理的道徳的に読むということには本来無理がある訳で、儒者の読み替えは中々巧妙に行われたとは言え、端々に綻びが生じて来るのは避けられず、二十世紀に入って疑古的な立場から原義を明らかにしようと試みる人が現れて来る。支那にあっては聞...
爻卦算木の発案者
- 2023/01/16
- 18:04

易占で用いる算木には、大きく分けて三種類あり、即ち陰画陽画のみを表すところの一般的な両象算木、陰画陽画に加えて老陽と老陰を示す「-」と「×」が刻まれた本筮用の四象算木、両端に爻卦の刻まれた中筮用爻卦算木の三種である(算木のことを松井羅州は像卦と呼んでおり、「世俗コレヲ卦木、或ハ算木ト呼ブ、コレモ亦不敬卑陋ノ称呼タリ」として、算木や卦木などという呼び方は怪しからぬとしているが、ここでは一般的な名称で...
三脚と筮具
- 2023/01/14
- 13:00
お道具を観れば、持ち主の程度というのが推し量れるもので、それが推し量れるようになっているなら、その人はもう一人前と見做して差し支えない、というのはどんな分野にも言える話のようだ。アマチュア古生物学仲間であるT氏は、日本に於ける通信制御分野の草分けの一人で、殆どの鉄道に氏のプログラムが組み込まれているそうだが、若い頃は工業製品の写真撮影で食っていた時期があるらしく、カメラにも滅法詳しい。庵主は名にし...
以竹代之
- 2023/01/12
- 18:44

易に関する多くの著作を残した杭辛斎(1869~1924)という清末民初の知識人が居て、獄中で易を学んだという宛ら文王や呑象ばりの人物であるのだが、アジアの中で最も早く近代化に成功した日本に同時代を生きた中国知識人の多くが羨望の眼差しを向けたのと同じく、彼もまた当時の我が国、殊に易学界を極めて好意的に見ていたらしきことが、其の著『学易筆談二集』から見て取れる。同書「日本之易学」の項において、日本の文学は皆、...
蓍草起卦
- 2023/01/10
- 18:26
中国と日本とでは矢張りスケールというものが違うと思い知らされることが屡々あるけれど、易にせよ漢方にせよ、毎月の出版点数などを覗き見ても、両国の差は比較にさえならないようだ。質と量は自ずから別の問題であるとはいえ、量が多ければ其の中に紛れる質の高い仕事も必然的に多くなるのが普通である。分母の大きさというのは矢張り馬鹿に出来ないもののようだ。先日youtubeで発見した動画は易にまつわる種々のエピソードをア...
蓍策制作
- 2023/01/07
- 23:24

“師走”は「師匠が走る」と書くが、先月はオンライン講座受講者諸氏の為の蓍策制作で夜なべ仕事が続いた。座しての作業であるから走りはしないけれど、かつてない数をこなした為に随分忙しく働いた気がする。蓍草(中国では是れにキク科ノコギリソウを当てているが、私は自身の考証により少なくとも占具として用いられたのはマメ科ハギ属のメドハギが正しいと考えているので、ここで云う蓍草はメドハギのこと)は採取そのものは、さ...
素晴らしき哉、年筮
- 2023/01/01
- 15:19

記録的寒波が一段落してから暖かい日々が続き、久方ぶりに快適な年末年始となった気がします。ガキ使の無くなった寂しい大晦日を皆さま如何お過ごしになったでしょうか。昨年に引き続き今年も大衍筮法にて年筮を試みました。得卦は地天泰不変です。これまで大衍筮法では余り不変卦に出遭っていなかったように思いますが、泰の不変ですから、比較的穏やかな一年を過ごせそうで、安堵しました。三変筮で指針を執ってみますと、震為雷...
経と伝
- 2022/11/25
- 18:22
現在、私達が手にする『易経』のテキストを紐解けば、文言伝のくっついている乾為天と坤為地を除き、序卦の順に並んだ一連の大成卦は、卦辞・彖伝・大象伝に続いて爻辞と小象伝とが交互に配される構成になっていて、火水未済以降に残りの翼伝が載っており、かかる配列に改変した下手人がなんびとであるかは不明ながら、費直・鄭玄・王弼の三説があることは以前記事にしたことがある。改変の理由が単純な読者側の利便にあることは容...
海昏侯の『易経』
- 2022/11/22
- 18:44

『漢方の臨床』9月号に載った小曽戸先生の「海昏侯劉賀前漢墓出土の医工杯」を興味深く拝読した。「海昏侯劉賀前漢墓」は2011年に江西省南昌で盗掘の発覚がきっかけとなって大々的に発掘され、多くの豪奢な副葬品が見出された前漢期の墳墓で、被葬者は武帝の孫の劉賀であることが判明している。在位僅かに27日という短さは廃帝と謚されるに相応しい幸の薄さを物語るが、それはさて置き、小曽戸論文では出土品中「医工五/□湯」と隷...