謎の百目鬼恭三郎
- 2023/06/10
- 11:40

国立国会図書館の個人向けデジタル化資料送信サービスが始まって早一年が過ぎた。これまで地元図書館の端末で利用するしかなかったものが、在宅で時間を気にせず利用出来るようになり、便利な事この上ない。出版社勤務の友人諸氏は、御国が出版不況の御先棒を担いでいるようなものと憤るが、これによって受ける恩恵は特に我々在野の研究者には計り知れないものがあると言う他ないようだ。加えて昨秋から始まった資料の全文検索対応...
テキストの校訂ということ
- 2023/02/01
- 18:39

如何に優れた校訂者を得たところで、書物から誤字や誤植を完全に無くすということには非常な困難を伴う。だから、論旨や結論を変更せざるを得なくなるが如き内容上の誤謬は兎も角として、誤字や誤植の類程度にはそう目くじらを立てるべきでもないのだが、それが教科書的な性格を持っている書物となると、少々事情が違って来るようだ。遥か遠い昔、まだ庵主が中学生だった時分、書店で購入した問題集(たしか学習塾が制作したという...
河盛好蔵先生
- 2023/01/04
- 15:11
昔は正月と言えば、チャールトン・ヘストンの『十戒』がそれこそ何十回となく放映されていたような気がするが、気が付けば長らく観た記憶が無い。その代りに深夜に放映される映画と来たら『ターミネーター3』だの『ジョン・ウィック』だのと、撃ち合いばかりでうんざりさせられる。テレビ屋は三が日に夜更かししているような手合いはどうせ撃ち合いしか観ないものと馬鹿にしているのだろうか。そうまでしてC級映画にお付き合いす...
『21世紀 占星天文暦』青木良仁解説
- 2022/08/01
- 18:15

目黒風水本が出たついでに拙ブログでは滅多に登場しない分野の署名本をお目にかける。先日、畏友青木良仁先生より送って頂いたもので、この本も刊行年がさして古くない割に世のインフレ率の遥か上を行く高騰ぶりを見せているようだ。私は此の分野についてはまるで知識を持ち合わせていないのだが、年初に青木先生から頂戴したメールによると、日本の西洋占星術界では「暦問題」が生じているらしく、神戸の魔女の家BOOKSが昨年...
『世界と日本の 地理 風水』目黒一三著
- 2022/07/18
- 16:35

此度、長らく“幻の本”として定価の十倍を超える古書価で取引されていた三代目目黒玄龍子著『都市の見えないメカニズム』が装い新たに復刊されることになった。実に二十八年ぶりの再刊である。此の本については随分前に一度記事にしているが、今回再刊に当たって若干の協力をさせて頂くことになり、久しぶりに読み返す機会を得、改めて其の内容の素晴らしさに感じ入った。占いに格別の関心を持たない極く普通の知識人の味読にも充分...
『わたし流佛教入門』福田敬子著
- 2022/06/16
- 18:21

記事のコメント欄より、Kさんからコンタクトがあったのは二月の暮れであった。御尊母が亡くなられて、その遺稿集を出版したので、木藤謙さんに送付したものの、住所が変わっていて返送されて来てしまい、途方に暮れていたところ、拙ブログに木藤さんが度々登場している為、転居先について問い合わせて来られたのであった。実は此の他界された御尊母というのが嘗ての福田屋旅館の御令嬢であり、神戸外大卒で語学に堪能であった此の...
『限界を超えた村』竹森正人著
- 2022/01/03
- 10:13

『限界を超えた村』竹森正人著(東高文庫/2021年刊)“限界集落”という言葉を知ったのはちょうど東北大震災の前年あたりであったから十年以上前のことで、当時熱心に行っていた石薬調査の為、九州の山間部にある超過疎の村落を訪れたのであるが、本書は“限界を超えた村”つまりは限界を突破して消滅してしまった村の物語である。著者の生まれ育った高知県の白石村が消滅するまでを昭和三十年代から順に回想したものであるが、淡々と...
『スーフィーの物語』イドリース・シャー編著
- 2021/05/28
- 18:38

『スーフィーの物語』イドリース・シャー編著(平河出版社/1996年刊)先週、思うところあって其の昔平河出版社から出ていた『スーフィーの物語』を読んでいた。スーフィーというのはイスラム教に於ける神秘主義で、教条的にコーランを墨守する主流のムスリムとは一線を画し、修行によって神との合一を果たそうとするものであり、現在ではこれも様々な流派に分かれている。編著者のイドリース・シャー(1924~1996)は西洋にスーフ...
紙は偉大なり
- 2021/04/22
- 18:39
支那文化に於ける飛躍的発展の契機となった最大の事件は恐らくは紙の発明であろう。竹簡のように嵩張るものは大量の文字を記録するのに適さず、さりとて絹帛ではあまりに高価で利用可能な人も限られようし、また大量消費も容易でない。そこに紙が登場して、初めてその恩恵に預かる人が爆発的に増えた事で教育の普及現象が引き起こされる事となった。長らく支那に於ける紙の発明者は後漢の宦官・蔡倫だとされていて、和帝(在位88~...
五車の書
- 2021/04/13
- 18:26
『荘子』天下篇に“恵施多方其書五車(恵施は多方にして、其の書は五車)”という文が見えていて、戦国時代の恵施という人は多芸多才で其の蔵書は車五台分もの量があったというのだが、蔵書の多い事を「五車」と表現するのは此の逸話を出典としている。もっとも此の「車」というのがトラックの類である筈はないから、案外手押し車やリヤカー程度のチャチなものかもしれないし、馬車としたところで、五台分の蔵書など今の我々から見れ...
『日本経済のトポス』日高普著
- 2020/09/01
- 18:15

『日本経済のトポス』日高普著(青土社/1987年刊)正統な学問的修養を積んだ人の場合、専門外の分野、つまり素人の立場でさえ、立派な成果を挙げ得るという見本として日高普先生の『日本経済のトポス』を取り上げる事にしたい。経済学者が経済の本を書く事のどこが素人に該当するのかと言われる向きもあろうが、著者の専門は資本主義の原理の研究という抽象理論であって、経済史という謂わば歴史学に関しては門外漢だから、やはり...
日高普先生のこと
- 2020/08/27
- 19:27

私が追っかけ的に愛読していた六人の論客は何れも保守派に属する書き手であったが、かつて反動と呼ばれたこの型の知識人も左翼の退潮著しい今となっては、この二字を以て表現される事は全く無くなったようだ。しかし、論壇に於ける分母が拡大したと思しき昨今、追っかけの対象に加えたいと思わせるような優れた知性の持ち主を保守に於いて見出す事が残念ながら出来ずに居る。他の殆ど全ての分野に於けると同じく、日本の指導的階層...
『室町記』山崎正和著
- 2020/08/23
- 13:25

一頃、上梓された本は旧著の復刊を覗いて其の殆どを手にするという半ば追っかけをしていたと言って良いような書き手が複数居て、それは則ち小室直樹、谷沢永一、丸谷才一、渡部昇一、長谷川慶太郎、山崎正和の六名の論客であるが、2010年の小室直樹以降次々と鬼籍に入ってしまい、先日の山崎正和氏の逝去をもって我が追っかけもついに終焉を迎える事となった。追っかけといっても惰性によるところ無きにしも非ず、小室氏の論述...
『諸怪志異』諸星大二郎著
- 2020/07/19
- 13:55

『異界録』諸星大二郎著諸星大二郎(1949~)の代表作として、Wikipediaは『妖怪ハンター』『西遊妖猿伝』『栞と紙魚子』の三作を挙げている。発行部数の上位三位までを順番に並べたものなのかどうかよく判らないが、私なら迷う事なく『諸怪志異』を推す。処女作の『暗黒神話』を第一に推す人も少なくないが、『孔子暗黒伝』と同じく、だんだん話の内容がよく判らなくなって来るのは同様で、その点、本シリーズは単純明快な一話完...
『孔子暗黒伝』諸星大二郎著
- 2020/07/16
- 18:15

『孔子暗黒伝』諸星大二郎著若年の頃は『易』など読むと頭が悪くなるという理由で敬遠していたとされる狩野直喜(1868~1947)も、『論語』述而に従って、五十にして『易』を読み、七十にして大変好んだというが、庵主の場合、まず最初に手を付けた儒教経典は『易』で、『論語』を読んだのは随分後になってからだから、経典の読み方としては、王道(?)とは真逆の手順を踏んだ事になる。が、白状すれば、『易』より『論語』よりず...