『論語』の人気
- 2020/08/10
- 22:24

少し前に『論語』や孔子周辺についての取り留めのない雑感を披歴したが、いいねを押してくださった方が随分多くて、驚かされた。儒教典籍について豊かなる知見を蔵しているとは言い難い庵主の駄文が、斬新な『論語』論になっていよう筈もないから、これは結局のところ『論語』が集める『易』などとは比較にならない程の人気を反映した現象に違いない。しかし、改めて調べてみると、私の探し方が悪いだけの話かもしれないけれど、『...
『論語』ヒストリー
- 2020/07/13
- 18:11

成立年代の古い古典的書物は、其の変遷と需要の歴史が複雑怪奇であるのを共通項としていると言って良いが、当然『論語』も其の例に漏れない。書名にしても、孔子の没後に門人等の集めた師の言葉が、確かに孔子の言説であるかどうかを議論して作られたので『論語』というタイトルが付けられたというが、昔は『老子』『孟子』などのように、人名即ち書名であったから、『論語』という名称はずっと時代が下るものである。実際、『孟子...
使乎使乎
- 2020/07/01
- 18:55

『論語』は、孔子と弟子たちとの印象的な問答の記録によって構成されて、いずれもが味わい深い独特なる魅力を持っているのだが、憲問第十四に見えている孔子が蘧伯玉の使者に関心するところなど、私の好きな一節である。蘧伯玉、人を孔子に使いす。孔子、之に座を与えて問ふて曰く、夫子何をか為す。対へて曰く、夫子は其の過ちを寡くせんと欲して未だ能はざるなり。使者出づ。子曰く、使なるかな、使なるかな。(蘧伯玉が孔子の許...
論語本あれこれ
- 2020/06/28
- 13:01

先に書いたように『論語』というのは恐ろしく難解な書物であって、本来漢籍入門として扱えるようなシロモノではない。もし、そのように扱うなら、それは東洋の思想に及ぼした影響の大きさという意味からであって、内容が平明で理解しやすい等という意味では断じてないのである。公田連太郎先生は、生涯もっとも『論語』を読まれたというが、孔子という人間のイメージが掴めないという理由からどれだけ乞われても『論語』の講義は拒...
『論語』雑感
- 2020/06/26
- 20:35
時々蒼流庵随想を読んでいるという友人A氏より、「こんなに庵主が『論語』を嫌っているとは知らなかった」という旨のメールが昨夜送られて来て、白状すれば些かの戸惑いを感じている。成る程、立て続けに孔子や『論語』の悪口めいた事を書き連ねてみたから、そのような誤解を受けたのやもしれないが、これは私の真意を甚だ掴み損ねていて、むしろ私は『論語』ほどに味わい深い古典というものを支那では他に見出し得ないのではない...
『儒教の毒』村松暎著
- 2020/06/23
- 23:47

『儒教の毒』村松暎著 村松暎(1923~2008)の『儒教の毒』は、庵主お気に入りの一冊で、教養ある読書人の多くが小馬鹿にして手に取ろうとしない傾向があるPHP文庫にも、一読巻措く能わざる名著が潜み隠れている事を本書によって知る事が出来る。本書は、長らく絶対的善であるかのように扱われて来た儒教について、ボロクソにこき下ろしたもので、著者は長年慶大で教鞭を執った中国文学者である(作家の村松友視は甥に当たるそうだ...
『天を相手にする』井上文則著
- 2019/03/24
- 18:30

『天を相手にする』井上文則著(国書刊行会/2018年刊)昨年国書刊行会から出た『天を相手にする』が、庵主の如き市定フリークにとって堪らない書物であるのは言うまでもない。私がそうであった様に、宮崎先生の著述を通して、中国ないし其の文化の一端を垣間見た、或は垣間見たような気になった読書人は少なくないと思う。いや、それどころか、一般の読書人にこれほど受け入れられた此の分野の著述家は他に一人も居ないのではない...
『支那学術文芸史』長澤規矩也著
- 2016/07/27
- 18:45

『支那学術文芸史』長澤規矩也著(三省堂/1938年刊)長澤規矩也の本では、『支那学術文芸史』も好きな一冊だ。中国思想史の概説であるが、表題にある通り、詩文小説などの文芸についても力を入れて書かれている。文体も古めかしく、若書きの部類に入る書物かと思うが、それだけに筆致にも勢いがあって良い。戦前の刊行であるから修正すべき内容も多々あろうが、碩学の書いた通史や概説書には、時を経て色褪せない明晰さがあって、...
『昔の先生今の先生』長澤規矩也著
- 2016/07/24
- 21:11

『昔の先生今の先生』長澤規矩也著(愛育出版,/1970年初版)長澤規矩也の数ある著作の中で最も“らしさ”の出た本は、何と言っても『昔の先生今の先生』であろう。そして、この“らしさ”の遺憾なく発揮された書物は、べらぼうに面白いのである。著者の師に当たる先生方や同僚の学者達の逸話が中心であるが、裏話の類に属する、つまり書かれる側からは甚だ迷惑であろう記述が随所に出てくる。序文は以下のような書き出しで始まる。学生...
『図書学辞典』長澤規矩也編著
- 2016/07/21
- 18:45

『図書学辞典』長澤規矩也編著(三省堂/1979年刊)谷沢永一が「書物に関心のある方にとって必携」と言う『図書学辞典』は、長澤規矩也晩年の編著で、辞典といってもハンディなサイズだが、内容は実に濃く、通読するだけでも随分楽しませてくれる本だ。副題に「和漢書誌学用語早わかり」とあるが、古典籍に関わる人は是非とも座右の書とされるが良かろう。随所に炸裂する長澤節は痛快である。“文献学”について、「わが国文学界では...
『古書のはなし』長澤規矩也著
- 2016/07/17
- 12:44

『古書のはなし ― 書誌学入門 ― 』長澤規矩也著(富山房/1976年初版刊)書誌学などという煩瑣な学問を庵主は好まない。この手のアプローチは得てして枝葉末節に流れ、本筋を見失いがちになる。とは言え、書誌学を無視した粗雑な研究は殆ど見るに堪えない。そして、この読むに堪えない文章(研究と呼べる代物ではないが著者の肩書は面白いことに研究家となっているものも少なくない)がネットの世界には溢れかえっている。また、悲...
四庫全書
- 2016/07/15
- 20:59
清代の欽定図書と言えば、『康煕字典』や『古今図書集成』など今日でも繙かれる有名な書物が色々あるが、その規模の最大を誇るものと言えば、言わずと知れた『四庫全書』である。乾隆帝の勅命により十年かけて編纂された此の書物は、文字数10億字という膨大なもので、完成までに夥しい費用と人員が投入された。この中に唯一収められた日本人の著述が山井崑崙の『七経孟子考文』であることは以前書いたのでご記憶の方もおられよう。...
中国古典叢書内容簡介
- 2016/07/10
- 19:53

「訳本などを読んで判ったような気になっても本当に読んだ内には入らぬ。」そう言われれば確かにその通りで、大抵訳本で済ませている身を省みれば私など唯恥じ入るほかはないが、興味のある漢籍を全て白文で読解するなど到底出来ることではないし、そんな学力はきょうび専門家でさえ、持ち合わせていないだろう。それに、『傷寒論』であれ、『周易』であれ、『論語』であれ、自分の専門とする書物でも、先人諸家の訓読や訳解と自身...
宮内庁書陵部収蔵漢籍集覧
- 2016/07/08
- 18:47

反骨の支那学者・長澤規矩也(1902~1980)によると、「我が国における宋元版の宝庫は、宮内庁の書陵部、内閣文庫、岩崎家の静嘉堂文庫である。この中で質においては書陵部、量においては静嘉堂文庫を最とし得よう。書陵部の宋元版の大部分は徳川幕府から引き継いだもので、その中には金沢文庫旧蔵本もある。」ということだ。この貴重書の宝庫たる宮内庁書陵部の収蔵漢籍が遂にデジタル化されて、貧しき我ら一般人も容易に閲覧する...
国文学研究資料館 電子資料館
- 2016/06/29
- 18:45

国文学研究資料館が公開しているデータベースは「日本古典籍総合目録データベース」だけに止まらない。電子資料館データベースのページには、何やら有用そうなデータベースがズラリと並んだ一覧がある。“何やら有用そうな”としか書けないのは、私自身が国文学に疎い為に、利用経験が「日本古典籍総合目録データベース」と「古事類苑データベース」に限られているからに過ぎない。読者諸賢の中には、易学や東洋医学といった諸学が我...