『巫・占の異相』 吉村美香編
- 2023/08/25
- 18:26

『巫・占の異相』 吉村美香編(志学社/2023年刊)昨日、奈良場勝先生より志学社から出た新刊『巫・占の異相—東アジアにおける巫・占術の多角的研究—』を御恵送頂いた。国際日本文化研究センターの2020年度の共同研究「巫俗と占術の現在ー東アジア世界の民間信仰の伝播と展開」の成果を元に編まれた一書で、先生は第3章「占術・相術・信仰の受容と展開」の中に「大雑書の易をめぐる書林の動き」を寄稿されている。副題の「東アジア...
『素女妙論』永塚憲治編訳
- 2023/08/01
- 18:12

『素女妙論』永塚憲治編訳(臨川書店/2023年刊)“孤高の医史学者”永塚憲治先生より、臨川書店から上梓されたばかりの『素女妙論』訳註を御恵送頂いた。永塚先生は、大東文化にて我が国に於ける陰陽五行説研究の第一人者であった故林克先生(1943~2022)より薫陶を受けられた後、中国に滞在すること十年、更なる研鑽を積まれ、帰国後も郷里の函館に籠って世俗を超越した学究の日々を送られている。其の知的領域は実に広く、そして...
謎の百目鬼恭三郎
- 2023/06/10
- 11:40

国立国会図書館の個人向けデジタル化資料送信サービスが始まって早一年が過ぎた。これまで地元図書館の端末で利用するしかなかったものが、在宅で時間を気にせず利用出来るようになり、便利な事この上ない。出版社勤務の友人諸氏は、御国が出版不況の御先棒を担いでいるようなものと憤るが、これによって受ける恩恵は特に我々在野の研究者には計り知れないものがあると言う他ないようだ。加えて昨秋から始まった資料の全文検索対応...
加藤先生より
- 2023/06/07
- 18:41

先日、生薬フレンドの加藤久幸先生から資料など諸々がギッシリ詰まった段ボールが宅急便で送られて来た。加藤先生は、伊吹山で20年以上植物観察を続けられており、何度か生薬探偵主催の観察会にも参加してくださっている。最近はZOOMを使った一般向けの啓蒙活動にも熱心に取り組まれているようだ。植物に少しでも親しんでもらいたいとの思いから講演会等で配布されている御手製の資料は勿論先生御自身で撮影されたもの。城西大学の...
天回医簡
- 2023/04/23
- 19:38

待ちに待った前漢の出土医書群『天回医簡』の全文公開、項数の割に安価に感じることの多い中文書のなかにあって、美術書並みの価格に只々驚かされるが、内容は大変充実している。推奨年齢は10 歳以上 (出版者より)だそうだ(笑)。2012年、四川省成都市金牛区天回鎮の「天回漢墓」三号墓より発見された夥しい数の竹簡の写真をフルカラーで収めたのが上巻、釈文と注釈を収録したのが下巻である。初め、本書の出版が伝えられてもピン...
『日本漢籍受容史』高田宗平編
- 2023/04/12
- 18:48

『日本漢籍受容史』高田宗平編(八木書店/2022年刊)世界に誇る日本文化も結局は中国の周辺文化の一つであって、その歴史は謂わば中国文化の、もっと謂えば漢籍の受容史と言い換えても良い側面を持っている。昨秋出た『日本漢籍受容史』は、その辺りを通覧するのに打って付けの書物であるようだ。それぞれの篇を第一線で活躍する優れた研究者が担当しており、最先端の研究成果が反映されていて、信頼度も高い。個人的には第二部五...
バイカオウレン
- 2023/04/05
- 09:26

テレビの力というのは実に想像を絶しているが、以前上中里にある多紀家墓所を掃苔した際、『JIN-仁-』の影響で多紀元琰(1824~1876)の掃苔にファンが詰めかけたという話を寺の人から聞かされて驚いたことがあった。緒方洪庵の墓に殺到するというなら未だ判らぬでもないが、多紀先生はそれほど魅力的な役柄だったとも思えない。どこでどんな余波があるのか予測不能だが、朝ドラ第三回ではようやく「バイカオウレン」が登場(オー...
『牧野富太郎 蔵書の世界』
- 2023/04/03
- 18:18

ついに牧野富太郎を描いた連続テレビ小説『らんまん』が今朝からスタートした。NHKの朝ドラを初回から観るなど初めてのことだが、富太郎の母親役の広末涼子が例によって異様な透明感を放っている。これだけでも観た甲斐があったというものだ。今日は『らんまん』放送開始記念として、高知県の牧野植物園が発行した『牧野富太郎 蔵書の世界』を御紹介しよう。『牧野富太郎 蔵書の世界』(高知県立牧野植物園/2002年刊)昨年、医史学...
『高島嘉右衛門 横浜政商の実業史』松田裕之著
- 2023/02/26
- 10:25

『高島嘉右衛門 横浜政商の実業史』松田裕之著(日本経済評論社/2012年刊)従来の嘉右衛門伝が全てと言って良いくらい呑象自身の証言を全て鵜呑みにして編まれているのに対し、今日ご紹介する松田裕之『高島嘉右衛門 横浜政商の実業史』は、現存する事業関連の公的文書や呑象を取り巻く人物群に関する史料によって呑象の懐旧譚を検証した面白い評伝である。紀藤元之介『乾坤一代男』や高木彬光『大予言者の秘密』が、呑象を数々の...
呑象と象山
- 2023/02/23
- 10:02

今更申し上げるまでもないけれど、まっとうな知識人の間では占いなど女子供の玩具といった程度にしか認識されておらず、『日本史をつくった101人』を読んでもそれがよく分かるというものだ。本書は、日本史をつくった重要人物101人を語る座談会の内容を書籍化したもので、顔ぶれは、伊東光晴(京大名誉教授 / 1927~)・五味文彦(東大名誉教授 / 1946~)・丸谷才一(芥川賞作家 / 1925~2012)・森毅(京大名誉教授 / 1928~2010...
『漢文法要説』を読む
- 2023/02/04
- 10:37
間違いが多々あると貶しておいて具体的な箇所を挙げないのは問題があるとの御声を頂いたので、『漢文法要説』中の気付いた箇所を列挙することにする。まずは、『漢文語法の基礎』同様、無害(?)な日本語に於ける助詞の不備から挙げるが、p60の「要する漢字の意味には伸縮がある」は「要するに」、p97の例文3の訳文に於ける「貨幣を統一とようとするならば」は「貨幣を統一しようとするならば」、p102の例文22の訳文中の「もしも...
テキストの校訂ということ
- 2023/02/01
- 18:39

如何に優れた校訂者を得たところで、書物から誤字や誤植を完全に無くすということには非常な困難を伴う。だから、論旨や結論を変更せざるを得なくなるが如き内容上の誤謬は兎も角として、誤字や誤植の類程度にはそう目くじらを立てるべきでもないのだが、それが教科書的な性格を持っている書物となると、少々事情が違って来るようだ。遥か遠い昔、まだ庵主が中学生だった時分、書店で購入した問題集(たしか学習塾が制作したという...
河盛好蔵先生
- 2023/01/04
- 15:11
昔は正月と言えば、チャールトン・ヘストンの『十戒』がそれこそ何十回となく放映されていたような気がするが、気が付けば長らく観た記憶が無い。その代りに深夜に放映される映画と来たら『ターミネーター3』だの『ジョン・ウィック』だのと、撃ち合いばかりでうんざりさせられる。テレビ屋は三が日に夜更かししているような手合いはどうせ撃ち合いしか観ないものと馬鹿にしているのだろうか。そうまでしてC級映画にお付き合いす...
『朱花の恋 易学者・新井白蛾奇譚』三好昌子著
- 2022/12/07
- 18:20

『朱花の恋 易学者・新井白蛾奇譚』三好昌子著(集英社/2021年刊)三好昌子著『朱花の恋 易学者・新井白蛾奇譚』はミステリー仕立てのファンタジーとでも形容すべき作品で、新井白蛾を主役にした初の小説と聞き、たしか新刊発売日に地元の書店で求めたと記憶している。昨年11月の刊行であるから、ちょうど一年前になるようだ。著者は2017年のデビュー以降、精力的に執筆活動を行っているようで、てっきり若手作家かと思い込んでい...
重修緯書集成
- 2022/11/28
- 18:15

漢文を読むのに特有の句法や品詞の排列法等に習熟する必要があるのは言を俟たないけれど、それ以前に当該分野の熟語を知らないとどうにもならないのは、『漢書』の「顔師古曰」を顔師古が人名と知らない学生が「顔、古えを師として曰く」などと読んでしまった笑い話に明らかであろう。もっとも、この手の話は未熟な学生だけを笑ってすませられる手合のものではない。以前、明徳出版社の『重修緯書集成』シリーズにおける易緯の巻を...