狼牙を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/07/31
- 18:00

ミツモトソウ(2017年7月31日/伊吹山)『金匱要略』婦人雑病篇に陰部の痛痒に用いる薬方として、狼牙湯というのが見えている。湯といっても煎服する訳ではなく、外洗方、つまり外用薬の一種だ。狼牙は、『神農本草経』下品に収載されているから、古くから知られた生薬らしいが、あまり使用頻度の高いものではないらしく、仲景方では同じく『金匱要略』に心痛に用いる九痛丸というのが出ている程度。基原も今一つよく判らない生薬だ...
蒴藿を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/07/30
- 18:15

ソクズ(2013年7月30日/大阪府南河内)『金匱要略』に金瘡の薬方として王不留行散という散剤が記載されているが、方中に用いられている蒴藿細葉は、レンプクソウ科ニワトコ属ソクズの葉で、仲景方では王不留行散にしか使用されていない。接骨木の名で民間薬として用いられるニワトコに似ているとして、クサニワトコの別名があるが、ニワトコは木本であり、クサニワトコはその名の通り草本である。それ程珍しい植物ではなく、山中よ...
苦楝子を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/07/27
- 18:38

センダン(2013年7月26日/大阪府北河内)苦楝子は、センダン科センダン属センダンの実で、『神農本草経』には“楝実”の名で下品として収載される。もっとも、生薬として用いられるのは中国のトウセンダンで、日本にも分布するセンダンは、あくまでも代用品に過ぎないようだ。主な使用処方は、『証治準縄』の苦楝丸や『素問病機気宜保命集』の金鈴子散などで、民間薬としては樹皮や根皮を外用薬として使用することがある。顕著な駆虫...
沢蘭を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/07/26
- 19:36

シロネ(2013年7月26日/大阪府北河内)婦人の要薬とされる沢蘭は、シソ科シロネの全草を乾燥させたもので、『神農本草経』では中品として記載される。使用処方であまり有名なものは聞かないが、難波和漢薬は『証治準縄』の沢蘭湯を挙げている。和名の“シロネ”は地下茎が白いことに由来し、食用になるそうだが、食べたという話はあまり聞かない。池や沼の畔など、湿気の多い環境を好んで生えるが、生薬探偵は淀川水系で一度見たきり...
黄蘗を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/07/19
- 18:25

キハダ(2016年7月19日/大阪府南河内)『神農本草経』に“蘗木”の名で記載される黄蘗は、ミカン科キハダの樹皮からコルク層を除いて乾燥させたもので、仲景方では、梔子蘗皮湯・大黄硝石湯・白頭翁湯・烏梅丸の四方に用いられ、日本のものでは陀羅尼助という有名な民間薬に含まれている。黄色い色は言わずと知れたベルべリンに由来するもので、キハダは漢方方剤に用いられる分よりも、むしろベルべリン抽出原料として収穫される方が...
石韋を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/07/17
- 18:25

ヒトツバ(2013年7月16日/大阪府奥河内)シダ植物は起源が非常に古く、恐竜の時代どころか、三葉虫が泳いでいた時代には既に繁茂していて、地球史上最初の森林はシダ類によって形成されていたという。私も四半世紀前、中生代ジュラ紀の植物化石を求めて、福井県の手取層群に通ったものだが、出てくるのはシダの化石ばかりであったと記憶している。そんなシダ植物ではあるが、生薬として用いられるものは不思議と少なく、これまでの...
木防已を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/07/16
- 10:01

アオツヅラフジ(2013年10月12日/大阪府岬町)防已の基原であるオオツヅラフジが比較的珍しいのに比べて、木防已の基原であるアオツヅラフジは、そこら中で目にすることが出来る。深山幽谷に分け入らずとも、街中を10分も散歩すれば、容易く見つけることが出来る普通種だ。街中で簡単に観察出来る張仲景使用薬物としては、葛根・木防已・艾葉・山薬(長芋)が、四天王といったところだろう。木防已や青木香(ウマノスズクサ)には...
防已を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/07/15
- 12:21

オオツヅラフジ(2017年7月15日/大阪府奥河内)『神農本草経』では中品として記載される防已は、古来より風疾の要薬とされ、仲景方では『傷寒論』中の薬方には使用されず、『金匱要略』中に、已椒癧黄丸・防已茯苓湯・防已地黄湯・防已黄耆湯という四つの使用処方が見えている。中国では、ツヅラフジ科のシマハスノハカズラの根を漢防已と称して用いているが、日本では同じくツヅラフジ科オオツヅラフジの茎および根茎を乾燥させて...
半夏を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/07/14
- 11:26

カラスビシャク(2013年7月14日/三重県伊賀市)漢方処方中に多用される半夏は、サトイモ科カラスビシャクの塊茎で、先に紹介した天南星もそうであるが、同科には蛇が鎌首をもたげたような恰好をしたものが少なくない。もともとは在来種ではなく、大昔に中国から渡来した所謂“史前帰化植物”と考えられている。日本全土に分布するが、農薬使用の為か、昨今では減少傾向にあるようだ。昔は農作業時に片手間に採取されたものが流通して...
梓白皮を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/07/12
- 18:11

キササゲ(2018年7月12日/大阪府河内長野市)『神農本草経』下品の部に登場する“梓白皮”は、ノウゼンカズラ科キササゲの樹皮とされ、『傷寒論』では陽明病篇に麻黄連軺赤小豆湯という使用処方が見えている。中国では樹皮が薬用部位であるが、日本の民間療法では主に“梓実”といって実を用い、現在でも国産品の流通がいくらかあるようだ。本来日本には自生しない植物で、河川敷などに帰化したものが見られるというが、生薬探偵はあま...
蒲黄を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/07/07
- 10:47

ヒメガマ(2013年7月7日/大阪府泉南市)『神農本草経』上品の部に収載される蒲黄は、ガマ科のヒメガマやガマ、コガマといったガマ類の花粉を乾燥させたもので、止血や利尿の効があり、我が国の有名な神話(そして最古の医話でもある)因幡の白兎で、ウサちゃんを救うために、大国主が用いたのがこの蒲黄であった。仲景方では、『金匱要略』に小便不利に用いる蒲灰散という処方があり、この蒲灰とは花粉ではなく、ガマの葉をそのま...
三稜を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/07/06
- 18:44

ミクリ(2016年7月6日/大阪府池田市)活血去瘀の薬物である三稜は、ミクリ科ミクリの塊根で、湖沼や河川に見られる水生植物である。薬用部位は、莪朮(酒飲みが崇めてるアレね)に外見がよく似ていて、実際、薬能もまた類似しているというが、活血去瘀の働きは三稜が優れ、莪朮は理気止痛の効が優れると言い、両者は併用されることも多いようだ。日本では法的に水蛭や䗪虫といった動物性の強力な駆瘀血薬を大っぴらに用いることが...
益母草を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/07/05
- 18:59

メハジキ(2013年7月5日/大阪府枚方市)『神農本草経』上品の部に“茺蔚”の名で記載される益母草は、シソ科メハジキの全草を乾燥させたもので(茺蔚子といって種子も用いられる)、この時期、河川敷や日当たりの良い草原などでよく目にすることが出来る植物だ。活血調経の効があり、月経不順や産後瘀滞の腹痛など、その名の通り婦人病に用いられることが多いが、洋の東西を問わず、古くから用いられてきた生薬である。身近なところ...
枸杞を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/07/02
- 18:19

クコの花(2013年7月2日/木津川)クコといえば、一般には生薬というよりも、杏仁豆腐のトッピングというイメージが強いかもしれないが、『神農本草経』上品に記載されていて、薬用植物として早くから認識されていたことが判る。実(枸杞子)だけでなく、根皮を乾燥したものを地骨皮、葉を乾燥したものを枸杞葉と呼んで薬用とするが、漢方家に身近なものといえば、地骨皮が清心蓮子飲や滋陰至宝湯に、枸杞子が杞菊地黄丸に配合され...
瞿麦を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/07/01
- 18:08

カワラナデシコ(2013年7月2日/木津川)冷房が必要になってくるこの暑苦しい季節、日射病覚悟で川原や草原を散策すると、淡紅色の美しい花を咲かせたカワラナデシコに出逢うことが出来る。『神農本草経』では中品の部に記載され、仲景方では『金匱要略』の栝呂瞿麦丸と別甲煎丸に用いられている。全草を乾燥させて用いるが、我が国では“瞿麦子”と称して種子を用いることが多いようだ。容易に出逢うことの出来る在来種で、これほど...