熊鍋をつつく~生薬探偵の食卓~
- 2018/11/28
- 18:08

熊さん由来の生薬と言えば、言わずと知れた熊胆であるが、『神農本草経』には上品の部に熊脂と見えているところからすると、昔は白い脂の部分を用いていたものらしい。『本草綱目』は、陶弘景を引いて、「脂、即ち熊白なるものは背上の肪であって、色は白くして玉のよう、味が甚だ美である」と云い、神農は例によって「久しく服すれば志を強くし、飢えず、身を軽くす」と大仰な効能を掲げる。熊肉について、陶弘景は、「痼疾あるも...
牡丹を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/11/25
- 10:50

ヤブコウジ(2017年11月25日/大阪府奥河内)“立てば芍薬、座れば牡丹”とは、まるで広末涼子ちゃんの為にあるような言葉であるが、いや、待てよ、広末涼子ちゃんには“清楚”を花言葉に持つ桔梗の方が似つかわしい、いや、“清浄”のササユリの方か、などと彼是考えてしまう。それはさて置き、牡丹は芍薬と並んで美しい花の代表的なものとして認識されていることが判るが、江戸考証学派の先駆の一人狩谷棭斎や森立之らは、唐以前の牡丹...
䗪虫を揚げる~生薬探偵の食卓~
- 2018/11/21
- 18:28

マルサスの人口論を今更持ち出すまでもなく、人口増加は必ず食糧問題を引き起こす訳だが、人口増加と共に食糧生産もまた相応の進歩を遂げて来た為、人類は何とか食糧危機に直面するのを先送りすることに成功して来た。とは言え、発展途上国における食糧難はとっくの昔から大きな問題となっていて、最近『ネイチャー』に発表された試算では、人口は2050年までに100億人を突破するといい、そうなるとさすがに地球規模での食糧危機は...
スッポンの夏~生薬探偵の食卓~
- 2018/11/18
- 16:19

今年の夏は、たくさん亀を食った。亀ばかり食っていたような気さえする。それらの亀は全て自分で釣り上げたものだ。何匹も何匹も捌いて、五匹目の時に極意を会得したような気がした。それからは、亀を捌くのが億劫でなくなり、時間も最初2時間かかっていたのが、最後には50分ほどになった。9月半ばには2.7キロという大物を釣り上げた。首の力がすごくて、ちょっと気を抜くと、手が持って行かれる。なんとか解体はしたが、首を引っ...
女貞子を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/11/15
- 18:09

トウネズミモチ(2014年11月15日/大阪府和泉市)『神農本草経』に上品として記載される女貞子は、モクセイ科トウネズミモチの成熟果実を乾燥させたもので、滋養強壮に用いる清補薬である。使用処方に、『医方集解』の二至丸など。トウネズミモチは外来種で、街路樹としてよく植えられているのを目にする。かつて和女貞子として使用された在来種のネズミモチは山野で稀に見かける程度。...
御料理 堀川~生薬探偵の晩餐~
- 2018/11/12
- 20:11

昨日は、大阪市立大学医学部にて催された日本医史学会関西支部の学術集会に参加して来た。幸い、医史学会の本チャンと違って参加費は2000円と手ごろであるし、開催場所が我が蒼流庵から左程遠くないこともあって、毎年気軽に参加するようになり、もう4回目の参加になろうか。といっても私は会員ではない。なるべく会には入らないようにしていて、特に規模の小さい会は入会すると色々な役を押し付けられて雁字搦めにされることを経...
赤小豆を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/11/11
- 08:15

ヤブツルアズキ(2015年9月19日/大阪府北河内)善哉やら御汁粉やらに使われている身近な小豆が、生薬であると言ったら意外に思う人も居るかもしれない。しかし、小豆は既に『神農本草経』にすら記載されていて、中品として扱われている起源の古い生薬の一つである。利尿作用があって、水腫を下す効があるが、小豆は小便を出し、大豆は大便を出すと覚えておくと良い。仲景方では、瓜蒂散・麻黄連軺赤小豆湯・赤小豆当帰散の三方に用...
山豆根を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/11/09
- 20:40

ミヤマトベラ(2012年11月8日/大阪府泉州)山豆根といっても我が国の漢方家にはいま一つ馴染みがないと思うが、中国では白花蛇舌草などと並ぶ抗癌生薬の花形の一つで、私の習った先生も癌の患者にはよく用いて素晴らしい成果を挙げておられた。日本では、小野蘭山以来、マメ科ミヤマトベラが充てられていた時代が長かったが、どうもそれは誤まった比定で、現在、中国から輸入される山豆根は、「広豆根」とも呼ばれ、苦参によく似た...
釣藤鈎を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/11/08
- 20:35

カギカズラ(2012年11月8日/大阪府泉州)見た目に特色のある生薬というのは幾つかあるが、その中でも取り分け印象に残るものの一つに、釣藤鈎がある。アカネ科カギカズラの鈎棘で、何やら物騒な恰好をしているから、生えていれば容易に他の植物と見分けることが出来るが、大阪では何ヶ所か自生地があるものの、数は比較的少ない。使用処方としては、抑肝散や釣藤散、大塚敬節先生創方の七物降下湯などが有名。高血圧の薬というイメ...
皁莢を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/11/07
- 23:55

サイカチ(2018年11月7日/奈良県御所市)『神農本草経』に下品として収載される皁莢は、マメ科トウサイカチの未熟果実で、仲景方では皁莢丸、桂枝去芍薬加皁莢湯の二方に用いられている。強い去痰作用があって咳喘等に用いられる他、利尿薬などにも用いられるらしい。日本には近縁種のサイカチが自生しているが大阪には殆ど生えておらず、近場では奈良の国立博物館の傍や、御所市の葛城川沿いに、樹齢400年を超える巨木が二本あり...
鶴虱を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/11/06
- 18:38

ヤブタバコ(2013年9月20日/南河内)駆虫の要薬とされる鶴虱は、『新修本草』初出の薬物で、当時はキク科シナヨモギの地上部を用いたものらしいが、現在の市場品はキク科ヤブタバコやセリ科ノラニンジン(八百屋で売ってる野菜の人参の野生種)の成熟種子を用いている。使用処方として『小児薬証直訣』の安虫散や『和剤局方』の化虫丸など。ヤブタバコは、下部の葉がタバコの葉に似て、薮に生えることに由来する和名というが、私は...
易学供養塔
- 2018/11/04
- 18:34

今日は年に一度の四天王寺易学供養塔護持会。木藤会長とは、春にご新居を訪問したり、夏場にぶどう王Nakataのぶどうをお持ちしたりしたので、割に今年はよくお目にかかった印象があるが、今回は嬉しいことに青木良仁先生が三年ぶりに参加された。青木先生とは以前は年に何度もお会いする機会があって、特に桜の季節と年末に京都など色々と散策したものだが、最近はすっかりご無沙汰で、振り返れば、昨春の真勢中州先生没後二百年追...
淡竹葉を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/11/03
- 11:17

トウササクサ(2016年11月3日/奈良県吉野)『神農本草経』に竹葉の原名で中品として記載される淡竹葉は、古くはイネ科マダケ属のハチクの葉であったが、明代以降イネ科ササクサが淡竹葉として用いられるようになり、現在の市場品は基本的にササクサやトウササクサに由来するものである。淡竹葉は清熱薬で、仲景方では『金匱要略』の竹葉湯と『傷寒論』の竹葉石膏湯の二方に用いられ、後者は白虎湯の変方である。ササクサは南河内な...
白朮を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/11/02
- 18:29

オケラ(2012年11月2日/大阪府中河内)白朮について語るには対になる蒼朮との関係から始めなくてはならない。実は、朮に二種の別がある事について最初に言及したのは、南北朝時代の陶弘景で、それ以前には、朮には一種類しかなかった。例えば前漢初期の『五十二病方』や後漢初期の『武威漢代医簡』といった出土医書には白蒼の区別はなく、字体に多少の相違こそあれ、いずれにもただ“朮”の一字で記載されているのである。こう書けば...
薏苡仁を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/11/01
- 19:45

ジュズダマ(2016年8月31日/河内長野市)イボ取りの薬として有名な薏苡仁は、『神農本草経』に上品として記載されており、普通、イネ科ハトムギの種仁を充てるが、ハトムギは後漢の時代に南方からもたらされたもので、それ以前の中国における在来種は、イネ科ジュズダマであった。ジュズダマは川穀の名で薏苡仁の代用とされるが、そもそもジュズダマの栽培種がハトムギであって、大きく異なるものではない。同じようなもので言えば...