地黄町を歩く~生薬探偵の散策~
- 2018/12/30
- 10:42

アカヤジオウ(2015年5月11日/奈良県薬事研究センター)ゴマノハグサ科の薬用植物として、以前玄参をご紹介したことがあるが、同科の生薬として最も漢方家に馴染みのあるのは、八味地黄丸などに用いられる地黄であろう(薬用部位は根)。『神農本草経』に上品として記載されている此の植物は、我が国に自生を見ないが、栽培はかなり昔から行われていたらしく、大阪近郊では奈良の橿原市に地黄町という地名が残っている。明治22年ま...
猪苓を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/12/28
- 20:40

生薬探偵として、国内に分布がある生薬を片っ端から探索して来たが、もっとも苦戦を強いられたのは、茯苓と同じ菌類生薬の一つ猪苓であった。猪苓は、茯苓とともに五苓散や猪苓湯などに用いられているが、茯苓が栽培に成功して現在中国から栽培品が沢山輸入されているのに対し、猪苓は未だ栽培化に成功せず、野生品を乱獲する状況が続いている。もっとも、中国では野生品がボコボコ発生するらしいのだが、日本では極めて稀にしか見...
茯苓を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/12/25
- 18:37

漢方治療に用いられる菌類と言えば、世間一般の人は、霊芝やサルノコシカケ、或は冬虫夏草といったキノコを思い浮かべるのが普通だろうが、これらは実際のところ、湯液で主役になる菌類生薬とは言えず、際どい宣伝文句を伴って健康食品の分野で取り扱われることが多い。しからば、漢方で用いられるキノコ類の王様は何かと言えば、それは間違いなく、サルノコシカケ科マツホドの菌核、すなわち茯苓であると言って何処からも異論は出...
キノコヘッド
- 2018/12/22
- 11:03

デヴィッド・リンチの1977年公開の映画に『イレイザーヘッド』という怪作があるが、それはさておき、本間玄調の『瘍科秘録』に、頭にサルノコシカケのようなものが生えた気色の悪いオバサンの図が載っている。内瘤飜花図とあるが、この奇怪な腫瘍が、現代医学の病名で何と呼ばれているのか、生薬探偵は甚だ不案内であるものの、松岡尚則先生に先日伺ったところでは、何万人に一人かには発症するものらしく、先生も実物をご覧になっ...
『冬虫夏草の文化誌』奥沢康正著
- 2018/12/19
- 18:44

『冬虫夏草の文化誌』奥沢康正著(石田大成社/2012年刊)奥沢先生には、『京の民間医療信仰』や『きのこ童話集』といったユニークな著述が数冊あるが、生薬探偵にとって忘れがたいのは、何と言っても『冬虫夏草の文化誌』である。我が国の古文献は勿論、洋の東西を問わず、冬虫夏草に関するあらゆる記述を徹底的に調査、図譜や顕微鏡写真に至るまで全てフルカラーで収載するという異常なまでに贅沢な内容で、恐らく今後日本でこれ...
奥沢博物館へ~生薬探偵の見学~
- 2018/12/17
- 18:33

眼科・外科医療器具歴史博物館(京都市下京区鍵屋町)先日、研医会の永塚憲治先生に同行させて頂き、京都にある眼科・外科医療器具歴史博物館(通称奥沢博物館)を見学することになった。この博物館は、京都医史学界の重鎮・奥沢康正先生が集めた眼科・外科の医療器具を展示しており、蒐集の元になったのは、生家である奥沢眼科と母方の竹岡外科に江戸時代から伝来する医療器具であるという。京大の研究会でよくご一緒させて頂く京...
高師小僧を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/12/15
- 16:59

禹餘粮は、岐阜県土岐市神明峠や北海道名寄市緑丘では国の天然記念物に指定されているのだが、名寄市字瑞穂では高師小僧という禹餘粮類似の褐鉄鉱の塊が同じく国の天然記念物となっている。幕末から明治時代にかけて活躍した探検家で浮世絵師でもあった松浦武四郎(1818-1888)の『天塩日記』に、「ホロムイ砂浜アリコヽニ細カキ土陰孽(※本来は石灰華の漢名であるが、ここでは高師小僧を指している)多シ、又鍛工銕糞ノ如キモノア...
禹餘粮を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/12/13
- 18:12

禹餘粮(産地不明/購入品)石薬のうち、生薬探偵が最も熱心に探究を続けたのは、赤石脂禹餘粮湯に用いられている禹餘粮である。禹餘粮は、夏王朝の創始者である禹王が、治水の工事を終えた際(禹王は治水事業を行った帝王として有名)、その余った食糧を会稽山(現在の浙江省紹興市南部に位置する山)に残したのが化石化したものと云われ、“禹王の餘った食糧”という其のままの名称だ。粟島先生から『傷寒論』を学んだ際は、和名を...
雄黄を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/12/11
- 18:27

ヒ素と云えば、誰しもその毒物としてのイメージが脳裏をよぎるであろうが、意外にも天然物の場合さしたる毒性を持たないのは水銀と変わるところがない。『神農本草経』には、雄黄および雌黄の名で中品として記載されており、仲景方では升麻鼈甲湯および小兒疳蟲蝕齒方に用いられる他、雄黄を熏じた煙でお尻をいぶす雄黄熏方というユニークな治療法が『金匱要略』に見えている。二代目曲直瀬道三(玄朔)の『薬性能毒』では「是ヲ火...
辰砂を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/12/09
- 14:40

辰砂(2012年3月8日/奈良県桜井市)辰砂は、『神農本草経』に“丹砂”の名で上品として記載され、使用処方としては『内外傷弁惑論』の朱砂安神丸や『金匱要略』の赤丸などがある。薬物としては朱砂の名前が一般的で、それ以外では辰砂と呼ばれることが多い天然の硫化水銀鉱であるが、辰砂とは良品を産した湖南省懐化市沅陵県の別名「辰州」にちなむ名称。中医学では重鎮安神の薬として認識されているが、日本では江戸時代に駆梅剤と...
決明子を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/12/07
- 18:04

エビスグサ(2018年11月1日/ご近所)『神農本草経』に上品として記載される決明子は、マメ科エビスグサの種子を乾燥させたもので、現在ではハブ茶として親しまれているから、或はもっとも身近な生薬の一つに数えて良いものかもしれない。決明子の名称は「目を開く」という薬効に由来するものであるが、血圧を下げる作用もあって、ハブ茶の効能として育毛効果なども謳われているようだ。使用処方としては『済生方』の決明子散や『証...
補身湯を求めて~生薬探偵の忘年会~
- 2018/12/04
- 19:17

中国人は四つ足のものは椅子と机以外みな食うという話だが、当然、本草学にも其のフロンティアスピリット(?)は反映されていて、ゴキブリから人間の頭蓋骨まで、ありとあらゆるものがお薬として記載されている。言い換えれば、どんなものでも何かの薬にはなるということだ。特に薬物として使用された歴史の長いものは、最初に成立した本草書『神農本草経』が載せる365種類の薬物であるが、その中品の部には、なんとワンワンのオ...
伊豆縮砂を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/12/01
- 10:03

ハナミョウガ(2014年12月6日/堺市鉢ヶ峰)安中散や香砂平胃散、香砂六君子湯などに用いられる縮砂は、Amomum villosum LOURやAmomum xanthioides WALLICHといったショウガ科の植物の種子団塊や成熟果実を基原とするが、これらの植物は我が国には産せず、同じくショウガ科のハナミョウガの種子が伊豆縮砂の名で代用に供された時代がある。品質はあまり良くなかったというが、フレッシュな為か、輸入品より香りなどは余程強く感じら...