論語本あれこれ
- 2020/06/28
- 13:01

先に書いたように『論語』というのは恐ろしく難解な書物であって、本来漢籍入門として扱えるようなシロモノではない。もし、そのように扱うなら、それは東洋の思想に及ぼした影響の大きさという意味からであって、内容が平明で理解しやすい等という意味では断じてないのである。公田連太郎先生は、生涯もっとも『論語』を読まれたというが、孔子という人間のイメージが掴めないという理由からどれだけ乞われても『論語』の講義は拒...
『論語』雑感
- 2020/06/26
- 20:35
時々蒼流庵随想を読んでいるという友人A氏より、「こんなに庵主が『論語』を嫌っているとは知らなかった」という旨のメールが昨夜送られて来て、白状すれば些かの戸惑いを感じている。成る程、立て続けに孔子や『論語』の悪口めいた事を書き連ねてみたから、そのような誤解を受けたのやもしれないが、これは私の真意を甚だ掴み損ねていて、むしろ私は『論語』ほどに味わい深い古典というものを支那では他に見出し得ないのではない...
『儒教の毒』村松暎著
- 2020/06/23
- 23:47

『儒教の毒』村松暎著 村松暎(1923~2008)の『儒教の毒』は、庵主お気に入りの一冊で、教養ある読書人の多くが小馬鹿にして手に取ろうとしない傾向があるPHP文庫にも、一読巻措く能わざる名著が潜み隠れている事を本書によって知る事が出来る。本書は、長らく絶対的善であるかのように扱われて来た儒教について、ボロクソにこき下ろしたもので、著者は長年慶大で教鞭を執った中国文学者である(作家の村松友視は甥に当たるそうだ...
論語と徂徠と仁斎と
- 2020/06/19
- 09:22

長らく東洋に於ける学問の底流であったと言っていい儒教の思想では、学問は即ち人格錬磨を目的とするものということになってはいるが、それはあくまでも建前上の話であって、前漢は武帝の時代に国教化されるに至ってそれは何よりも立身出世の手段に成らざるを得なかったし、それどころか、孔子の時代に於いてさえ、其のスクールは畢竟政治の場で活躍する人材を養成するものであった事を考えれば、何のことはない、御大層な名分を掲...
過則勿憚改
- 2020/06/16
- 18:07
どれだけ書き上げた時に達成感を感じた自信作であっても、せいぜい其の満足度は持って半年、早ければひと月程の寿命でしかないという実感が私にはある。あれほど万全を期したつもりでも、たいていは或る時思わぬ誤謬を発見するのであって、これまでに紙媒体で公にした三十を超える拙稿の中で、今読み返してみて一つの瑕疵さえ見い出せないというのは僅かに一つか二つという有様であるが、幸い、それによって結論そのものの変更を強...
岡本一抱~楽しいイエマイル~
- 2020/06/13
- 18:21

目ぼしい掃苔の殆どをやりつくして退屈していた一頃、ポッカリ空いた心の隙間を医家先哲の居宅跡探訪で埋めていた事がある。2016年から2017年にかけての事だ。江戸時代には住宅地図のような詳細なものがないから、ピンポイントで特定するのは難しいが、京都であれば、『平安人物志』の如き資料があるから、通りくらいは、大よその場所を知る事が出来、医人に関しては、『京都の医学史』資料編収載の『良医名鑑』や『天保医鑑』など...
消える無縁墓
- 2020/06/10
- 20:15

先日、取材で久しぶりに京都入りした際、旧本圀寺墓地である妙恵会総墓所に足を運んでみて驚いた。同墓所はちょうど二年ぶりであるが、墓地中央にあった二基の無縁塔のうち、東側の一基が処分されて、跡形もなくなっているのだ。上掲は初訪時の2009年に撮影したものである。グーグルマップの衛星画像ではまだ二基とも確認出来るが・・・御覧の通り旧本圀寺墓地には、かつて初代味岡三伯の門下四傑のうち、井原道閲と岡本一抱の墓所...
ものを書く恐怖
- 2020/06/07
- 15:36
ものを書くというのは、あまり楽しい作業ではないと感じる。どちらかというと苦悩と苦痛、そして恐怖を伴う行為と言っても良いかもしれない。殊に論文の類はそうであろう。これは書いた者にしか判らない事かもしれぬが、自分では大発見をしたつもりでも、既に誰かが同じような事を見つけて先行発表していれば、恥こそかかねど、馬鹿を見る事がある。だから、執筆以上に先行研究の渉猟に多大な時間と労力を費やすのであるが、特殊な...
ものを書くということ
- 2020/06/04
- 19:50
今年は幸いコロナの御蔭か、それとも私の学問の底の浅さが周知されて来たのか、講演依頼が全く来なくてほくそえんでいたら、思わぬ伏兵あらわれ出でて難儀したのが先月のこと。図書館閉鎖で常連執筆者からの投稿が激減した為か、さる学術誌から、今井先生経由で、何が何でも投稿せよとお達しがあったのである。気が向かないと書かない主義だし、程度の低いものを書くと、学術誌は殊に末代まで恥を晒す事に繋がるから、広瀬宏道ゆず...
医人たちの晩餐会
- 2020/06/01
- 18:53

先日、久しぶりに子孫マイラーの今井秀先生に天満橋の御料理堀川さんへ連れて行って頂いた。記録を見返すと、前回は昨年の八月だったから、気付かぬうちに随分無沙汰を重ねてしまっていたようだ。10月にミシュラン一つ星を獲得してからは御邪魔していなかったが、よく考えてみれば、星ゲットからもすでに半年以上が経過している。大将は元花外楼の料理長で、此の花外楼こそ、明治八年に、大久保利通・木戸孝允・板垣退助・伊藤博文...