出土資料に対する不安
- 2020/12/29
- 10:37
自分が古書の鑑定について素人であるという事も関係しているとはいえ、昨今の出土資料ブームに対して感じる不安は、やはり其の資料が本物であるのかどうかという点で、これは独り庵主のみが抱いている感覚ではない筈であるが、不思議と同じ不安を吐露する人の少ない印象がある。“ゴッドハンド”こと藤村新一氏が世間を騒がせた旧石器捏造事件から今年でちょうど20年になるが、あれだって毎日新聞の記事が無かったら発覚はもっと遅れ...
汲冢書のこと
- 2020/12/26
- 09:27
このところ中国学は既存の文献を扱う従来の分野よりも出土資料を対象にした研究のほうが活気があるようだ。実際に出土資料によって従来の定説が覆されるような発見が続いているから、それも無理なからぬ事ではあるが、私は正直言って此の手の分野を余り好きになれずにいる。それは最新の成果にアクセスするには中国からの簡体字の情報をこまめにチェックし続けなければならないのが途方もなく面倒に感じるという理由も一つにはある...
亀卜による立卦?
- 2020/12/23
- 13:28

大陸において陸続と発見が続く近年の考古学的成果が術数関連の分野においても極めて興味深い多くの新知見を提示してくれているのは広く知られるところである。其の中には、蓍を用いて卦を布くという繋辞伝記載の筮法を遥かに遡る立卦法の存在を匂わせるものも見つかっていて甚だ興味深い。1987年に河南省舞陽県賈湖村の新石器時代の遺跡より副葬品として発見された八点の亀甲には、内部に数個から数十個の小石が入っており、用途に...
算木再論
- 2020/12/20
- 10:22

かつて算木のはなしを書いて、それが随貞白蛾以降に登場した占具ではないかと考察したところ、読者より算置(さんおき)の歴史を考えれば、江戸よりずっと以前に算木が存在したと考えるべきではないかという趣旨のご指摘を頂いた事がある。算置というのは、我が国中近世の俗占の一種であり、専門からやや外れる為、私は不案内であるが、易に類似した、というよりも易占を通俗化したような占術であったようだ。しかし、そこで用いら...
ゼニとゼイ
- 2020/12/17
- 18:14
一般に正統な立卦具として認識されているのは、断易は銅銭、周易は筮竹という事になっているらしい。少なくともそう思っている人が大多数を占めるのは確かだろう。しかし、筮竹が正統なものだという其の認識も来歴を考えればさして権威を持つ程の古さを誇る訳には行かない筈であるし、断易の立卦を擲銭で行うというのも実は同様ではなかろうか。以前、擲銭源流考で述べたように、京房が創始したとされる其の立卦法も実際の成立年代...
蓍の薬能
- 2020/12/14
- 18:02

メドハギ(2013年7月2日.木津川にて撮影)何度か書いてきたように、現在中国では蓍の基原にキク科ノコギリソウを当てていて、私は未だ此の比定に丸で納得出来ずに居るのだが、他に訝しむ者の声を耳にしないのは、今では生薬として用いられなくなっているという事情が関係しているのであろうか。『春秋繁露』は「蓍百莖にして一本、是を以て三代伝へて疑を決す」と云い、『洪範五行伝』は「蓍生ず百年、一本百莖を生ず」、『史記』...
戦国以前の蓍筮
- 2020/12/11
- 18:27

先日の『麒麟がくる』を視聴した方の中には用いられた立卦具を筮竹と勘違いした人も居たと見えて、江戸時代から使われ始める筮竹を松永弾正が使用するのはおかしいと書かれていたが、実際に使用されたのは筮竹ではなく蓍であるから此の批判の当たらない事は既に読者諸賢の承知されているところであると思う。もっとも、短いシーンだった事もあり、あれを筮竹でなく蓍策であると見抜けた人は殆ど居なかった筈で、かくいう私ですら思...
今井屋敷跡
- 2020/12/08
- 18:11

京都の町を歩くと其処此処に記念碑が立っているのを目にして歴史好きならそれだけでも楽しめるものがあるけれど、堺もそれには及ばぬながらちんちん電車の走っている辺りを散策すると似たような石碑を沢山見つける事が出来る。今井屋敷跡(大阪府堺市堺区宿院町東3丁1)宿院にある堺市医師会の別館そばに今井屋敷跡を示す石標と案内板があり、織田有楽斎より今井宗薫(宗久の長男)が譲り受けたものとあるから、松永弾正の易占シ...
サイレントナイト
- 2020/12/05
- 13:29

『麒麟がくる』のくだんの場面で、陣内孝則扮する今井宗久に話しかけられた松永弾正が「んんーん」と応じるシーンが妙にかっこよかった。後ろ向きというところがまた良かったような気がするが、自分も同じ状況になったら「んんーん」と応じてやろうと思っている。が、作品のリアリティとしてはあれは甚だ頂けなかった。揲筮というのは本来厳粛極まるものであって、だからこそ斎戒沐浴等という面倒な事を敢えてしてまで占者は筮に臨...
松永弾正のこと
- 2020/12/02
- 18:04

ごく普通の歴史好きの日本人に人気のある時代区分と言えば、昔から戦国時代および幕末維新と相場は決まっているけれど、平和を愛してやまない蒼流庵主人にとって此の血腥い二つの時代は全く興味を引かれないものである為、其の登場人物に関する知識は至って平凡で常識的な範疇を出るものは殆ど無いと言っていい。我が蓍を手にした松永弾正(1510~1577)とて其の例外ではなく、三好長慶の元家臣で茶人としての顔も持っていたという...