ある日の公田連太郎氏(下)
- 2022/08/28
- 10:28

冬のうす日がさす。それを背にして、公田さんはうれしそうにいう。ひざの上に分厚い和とじ本。「ゆうべ『大智度論』をやっと読み終りました。と申しても、なんにも残っておりませんが……しかし読んでいる間は、空中に浮んでるような気分でござした」公田さんは昨年一月、病気をした。もうダメだと思ったところ、不思議になおった。そこで心祝に読もうと、仏教の故事来歴を書いた『法苑珠林』(ほうおんじゅりん)を読始め、いつの間...
ある日の公田連太郎氏(中)
- 2022/08/25
- 18:23

公田さんの家は古くて、小さい。やけたタタミ、粗末な机、黒ずんだカベ、そのカベに「遁世」と書いた良寛の木彫がかかっている。それを背にした公田さんは、いかにも安らかで、顔回のように毎日を楽しんでいるように見える。しかし、それは世捨て人の気楽さではない。世間に認められるとか、社会的な地位を得るということに何の興味も示さない公田さんだが、逆に世を捨てたり、世を逃れたりするのも決して快としない。「竹林の七賢...
ある日の公田連太郎氏(上)
- 2022/08/22
- 18:41

公田連太郎先生は昭和36年、「漢学に対する深い学殖とすぐれた労作」に対し、朝日文化賞を贈られており(同じ年に長谷川伸、前年には津田左右吉らが朝日賞を贈られている)、同年一月の朝日新聞東京版朝刊の学芸欄に当時記者だった森本哲郎氏の取材した記事が掲載されている。公田さんのお宅はどの辺でしょう?「コーダ?ああ、あの漢文の先生、それならあの路地の奥ですよ」とタバコ屋の主人が教えてくれる。東京・品川区大井出石...
【叢書・日本の思想家】全50巻
- 2022/08/19
- 18:08
明徳出版社と小林日出夫の想い出の150~153頁に、同社が1977年より刊行を開始した【叢書・日本の思想家】なる全50巻のシリーズが紹介されている。近世日本の思想界・教育界を動かした96人の思想家を採り上げた叢書であるが、現在に至るも未刊のままのものが数冊あるようだ。実のところ一冊も手に取ったことがなく、なんびとの人選か分からぬが、ここに挙げられた96人は其の多くが青木良仁先生命名するところの“易儒”であって、大半...
吾不復夢見周公
- 2022/08/16
- 09:34
『明徳出版社の六十年と小林日出夫の想い出』に収載された「公田連太郎先生と易経」(酒井杏之助)に、以下のような記述がある。公田先生は、いまだ曽て論語の講義をされたことがない。「論語の講義は自分には出来ない、論語の講義をするとなれば孔子が顔前に浮び出て来なければならぬ筈だが、自分にはその自信がないから講義は出来ない」と云われるのである。先生を知らないでこの話だけを聞くと、変に思う人もあるかも知れないが...
『明徳出版社の六十年と小林日出夫の想い出』小林眞智子編著
- 2022/08/13
- 10:03

(明徳出版社/2013年刊)Y氏からの寄贈図書第三弾は、『明徳出版社の六十年と小林日出夫の想い出』である。平成25年、明徳出版社の創業者である小林日出夫(1927~2007)の七回忌に同社創立六十周年を記念して刊行されたもので、300円という申し訳程度の定価がつけられているのは、当初有縁の方々に無償で配布することを企図していたものの、それでは書店に置くこと叶わず、同社の存在を知らない人々の目に触れる機会を持ち得ない...
『ミカドの岩戸がくれ』紀藤元之介著
- 2022/08/10
- 18:19

『ミカドの岩戸がくれ』紀藤元之介著(金龍神社崇敬同志の会/1978年刊)6月の暮れ、神奈川の録画受講生Y氏より「既にお持ちとは思いますが」との前置き付で一冊の古書が届けられた。Y氏の言の如く既にお持ちの一冊、というより広瀬先生と木藤謙さんから過去に恵与されているので、実は三冊目になるのだが、氏が送ってくれた三冊目が最もコレクターズアイテムと呼ぶに相応しい逸品であって、なんと紀藤先生が安岡正篤先生に贈られた...
『木村康一教授論文抄録集1927~1965』
- 2022/08/07
- 10:16

神奈川から録画視聴コースにて受講されているY氏とは目下面識こそ無いものの、偶然にも庵主と諱が同じ(漢字は違うが読みは同じ)で誕生日も一緒という偶然にしては出来過ぎた符合を以て申込時に庵主を驚かされたのだが、現在のお住まいが昭和45年に102歳で没した母方の曾祖母の居宅から目と鼻の先という点にも何やら見えざる手の働きを感じさせられた。それはさて置き、Yさんは庵主の睨んだところ、ビブリオマニアの範疇に属する...
開豊瓊玉膏
- 2022/08/04
- 18:25

最近、ものを貰う幸運に連続して恵まれていて、恐らくは先日赤十字の募金箱に15円を投げ入れた功徳なのではないかと思っているのだが、少し前にはN先生から瓊玉膏を御恵送頂いた。N先生は日本東洋医学会の指導医でもある漢方の大家で、其の筋では著名な臨床家であるが、春からの蒼流庵易学講座に関心を持って頂き、現在熱心に受講してくださっている。瓊玉膏は『東医宝鑑』や『張氏医通』などに見えて居る膏薬で、我が国では其の昔...
『21世紀 占星天文暦』青木良仁解説
- 2022/08/01
- 18:15

目黒風水本が出たついでに拙ブログでは滅多に登場しない分野の署名本をお目にかける。先日、畏友青木良仁先生より送って頂いたもので、この本も刊行年がさして古くない割に世のインフレ率の遥か上を行く高騰ぶりを見せているようだ。私は此の分野についてはまるで知識を持ち合わせていないのだが、年初に青木先生から頂戴したメールによると、日本の西洋占星術界では「暦問題」が生じているらしく、神戸の魔女の家BOOKSが昨年...