『漢方と民間薬百科』大塚敬節著
- 2018/03/17
- 09:47
『漢方と民間薬百科』大塚敬節著(主婦の友社/1966年初版)
大塚敬節先生と言えば、一般には昭和漢方復興の功労者として、そして『傷寒論』の大家として其の名が記憶されているが、誤解を恐れずに言うなら、其の真の功績と言うべきは、民間薬への取り組みではなかったか。
そもそものきっかけは、太平洋戦争の煽りを受けた輸入生薬の欠乏にあったらしいが、其の後、生薬供給が安定したこともあり、大塚先生以外の諸家は民間薬に殆ど取り組まなかったように見受けられる。
本書は、1966年に刊行されたもので、書名の通り、漢方と民間薬の初歩的な知識を得るのに便利な本だが、殊に民間薬については啓発されるところが多い。
民間薬の本は、どこかから引き写して来た効果・効能が単に羅列されているだけのものが多いが、本書は先人の治験・体験が豊富に収載されていて(やたらに出て来る『主婦の友』の読者体験談はどこまで信用して良いものか判らぬが)、この部分を読むと、何だか自分でも使ってみたいという衝動にかられてしまう。
また、端々に生薬窮乏に対する著者の取り組みが垣間見えるが、たとえば、アサガオの項には以下のような経験が載せられている。
太平洋戦争で、シナから輸入の漢方薬が払底してしまったときのことである。
下剤としては雲南地方産の唐大黄がよくきくのだが、これもなくなり、かわりにアサガオを用いてみた。
はじめはせんじで用いたが、必しもきかないので、よく調べてみると、アサガオの種子の有効成分は水にとけないことがわかって、粉末として用いてみたところ、少量でもよくきいた。
ことに、大黄を少量だけ加えるとよくきくので、大黄を節約することができた。
生薬価格の高騰が問題になっている昨今、こういう精神には大いに見習うべきところがあると思う(薬事法など実践に当たっての問題はあるにせよ)。
漢方家は民間薬を低級なものと馬鹿にしがちであるが、基本的に単味で用いる民間薬は時に漢方以上の鋭い効き方をすることも少なくない。
私たちの周りには、誰も採らないが、優れた薬効を持つ生薬が数多くある。
民間薬の発掘は、今後大いに取り組むべき価値のあるテーマであろう。
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