遠志を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/05/17
- 18:37
ヒメハギ(2014年5月17日/大阪府泉佐野市)
遠志は、中国に広く産するイトヒメハギの根で、本来、メジャーな使用処方は帰脾湯・人参養栄湯・加味温胆湯くらいであるから、頻用薬物とは到底言えないが、昨今、生薬価格の高騰で経営危機に喘ぐ漢方メーカー各社にとって救世主のような売れ行きを示しているのが、この遠志であるという。
なんでも、認知症に有効ということで、ブームの淵源となった(或いはブーム作りに利用された)のは、2009年に韓国のグループが、Neuroscience Lettersに投稿した論文であるが、こちらの記事を読む限りでは、あまり信頼性の高いものではないようだ。
『神農本草経』の説くその薬能は“智慧を益し、耳目を聡明にし、物を忘れず、志を強くし、力を倍す。久服すれば身体を軽くし、老衰せぬ”と例によって大仰極まりないが、実際のところはどうなのだろう。
ただ、昨年、『医心方』巻第二十六の益智方第四の部を読んでいて、そこには、聰明益智方だの真人開心聰明不忘方だの孔子枕中神效方だの、オツムの調子の宜しくない方々を食いモノにする為に考案されたのではないかと思わせるような御大層な処方がズラリと並べられているのだが、その殆どに遠志が入っているのが印象的ではあった。
マジモンの遠志は、我が国には自生を見ないが、在来種のヒメハギ(Polygala japonica)も、ジャポニカとは言え、中国や朝鮮に分布しているらしいから、ヒメハギも一緒に使われていた可能性はあろう。
松岡玄達の『用薬須知』には「和漢共ニ皆真ナリ。和ニ大葉小葉ノ二種アリ。花肆ニ姫萩ト呼ブ者是ナリ」とあって、大葉小葉の二種というのはよく判らぬが、いずれにせよ、和漢の産共に用いて可としているようだ。
何処にでも生えているものではないが、日当たりの良い草原に生える為、公園などでも見つけられなくはない。
時期は3月くらいからで、そろそろ花は終わりだろう。
地面を這うようなショボイ植物なので、花無しだと見つけるのは一寸難しい。
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