白朮を求めて~生薬探偵の冒険~
- 2018/11/02
- 18:29
オケラ(2012年11月2日/大阪府中河内)
白朮について語るには対になる蒼朮との関係から始めなくてはならない。
実は、朮に二種の別がある事について最初に言及したのは、南北朝時代の陶弘景で、それ以前には、朮には一種類しかなかった。
例えば前漢初期の『五十二病方』や後漢初期の『武威漢代医簡』といった出土医書には白蒼の区別はなく、字体に多少の相違こそあれ、いずれにもただ“朮”の一字で記載されているのである。
こう書けば、いや『傷寒論』にも『金匱要略』にも白朮とあるではないかと反論する人が出てくるのは当然であるが、それらの記載は宋改の際に改められた事が今日明らかとなっており、原文では朮の一字であったものを、既に二種の朮が用いられて久しかったので、そのままでは読んだ人が白朮なのか蒼朮なのか判断に迷う為、林億ら宋臣の配慮で書き改められたという訳だ。
吉益東洞は白朮よりも蒼朮を用いた方が良いとし、森立之も仲景の用いた朮は白朮ではなく蒼朮だったとしているが、江戸時代の基原と宋臣たちの考える基原が同一であるのかという問題があって、やはり基原植物というのは中々論じるに難しさがあることを痛感させられる。
実際、昔から日本では白朮と蒼朮を二種類の異なった基原の生薬とはせず、皮をむいたものを白朮、皮つきのものを蒼朮としていた。
さて、現在、中国ではホソバオケラとシナオケラの根茎を蒼朮の基原とし、オオバナオケラを白朮の基原としている。
日本に自生があって和白朮と呼ばれているオケラは学名にジャポニカとあるものの、我が国の固有種という訳ではなくて、日中に共通して自生があるのだが、中国では「関蒼朮」として蒼朮に分類されているというからややこしい。
なお、蒼朮には発汗作用があるのに対し、白朮には止汗作用がある他、健脾の力は白朮が優れ、燥湿の効は蒼朮が勝るとされているが、名古屋市立大学の牧野利明先生の研究によると、両者に薬効の差はなく、どちらを使っても問題ないということだ。
2013年8月15日/兵庫県
以前、兵庫県にミシマサイコを探しに行った時、今や貴重な野生オケラがやたらと生えていたので、一株掘ってみたことがある。
なお、その昔一級品として知られた佐渡島の所謂“佐渡蒼朮”は、中国から持って来たホソバオケラを栽培したものであり、毎年学生を連れて佐渡研修に出かける大教大の岡崎准教授によると、逸出が野生化したものが見られるというので、いつか、行ってみたいと思いながら、中々機会を持てずに居る。
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