熊鍋をつつく～生薬探偵の食卓～

熊さん由来の生薬と言えば、言わずと知れた熊胆であるが、『神農本草経』には上品の部に熊脂と見えているところからすると、昔は白い脂の部分を用いていたものらしい。

『本草綱目』は、陶弘景を引いて、「脂、即ち熊白なるものは背上の肪であって、色は白くして玉のよう、味が甚だ美である」と云い、神農は例によって「久しく服すれば志を強くし、飢えず、身を軽くす」と大仰な効能を掲げる。

熊肉について、陶弘景は、「痼疾あるものは食うと、その疾は終身除けなくなるから食ってはならぬ」とし、孟顯も「もし腹中に積聚寒熱のある者が食い過ぎると、治らなくなる」と云って脅かして来るが、これも中々美味なものであると聞く。

以前は鶴橋に熊料理を出してくれる店があったそうだが、随分昔の話らしく、最近では琵琶湖の畔にある比良山荘が熊鍋で有名らしい。

先日、毎年比良山荘で熊鍋を食うという人から、美味なること筆舌に尽くし難しと聞かされて、これは行ってみなくてはと思い立ったが、おひとり様三万円近いと聞かされては、赤貧にあえぐ身として二の足を踏む。

猟銃免許でも持っていればいつものノリで仕留めに行きたいところだが、最近は銃犯罪に敏感で、一般人の場合、昔のようには免許そのものの取得が簡単でないらしい。

仕方がないので、肉屋から通販で取り寄せて、蒼流庵にて鍋を囲むことにした。

送料込300グラムで6000円とは立派な高級食材だが、比良山荘に比べたらタダみたいなものだ。

丹波産のツキノワグマ。美味しそうだ。

熊鍋は味噌ベースでグツグツやるのがセオリーらしい。

分厚い肉の場合は、1時間くらい煮込んだ方が良いそうだが、ペランペランのお肉につき、火が通ればすぐ食べた方が良いとは、親切なお肉屋さんの指導。

食べてみると、ジビエだけあってそれなりの歯ごたえはあるものの、臭いは全く無くて、むしろ牛肉の方が余程臭うという印象。

しかも、噂には聞いていたが、白い部分は脂と言っても事実上白身という感じで、目を閉じて食べれば、脂身であることはまず判らないと思う。

もとより食が細いので、その日は雑炊まで食べられず、翌日の昼食が熊雑炊に。

地域性なのか、味噌ベースの雑炊というのは初めて食したが、これも中々悪くない。

ただ、値段の割にそれほどの美味かと聞かれたら、どうだろう、微妙な返答をするしかないような気がする。

フルボッキ効果もスッポンさんほどではないようだ。