『気の自然像』山田慶児著
- 2019/05/10
- 18:14
『気の自然像』山田慶児著(岩波書店/2002年刊)
山田慶児(1932~)と言えば、医史学の分野でも大きな業績を挙げておられる科学史研究の大家であるが、その慧眼を五運六気説に向けた成果を収めたのが2002年に岩波書店から出た『気の自然像』。
運気論を実際に使用する為の解説書ではなく、その成立事情を探った述作であるが、例によって著者の鋭い洞察、自在な展開と、毎度のことながらほとほと感心させられる。
本書は、長らく唐代に王冰が偽作して『素問』八十一篇中に混入させたと考えられてきた運気七篇が、もっと後代の作であることを明らかにした范行準(1906~1998)の説を継承発展させたもので、運気七篇は五代末に許寂の一派により創作され、北宋代に入ってから『素問』に挿入されたものであり、其の際、王冰に仮託して偽の次註が作られたと見る。
もっとも、最近前漢時代の墳墓から見出された出土医書群より、運気論の一部の文章が見つかっているそうで、考え方の祖形は漢代には既にあったものらしいが、これは今後の研究を待ちたい。
いずれにせよ、昨今医史学の分野では独りよがりなつまらない論文ばかり目につくが、これくらいの水準のものが読みたいものだ。
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