農用気象学の実際
- 2019/05/22
- 18:49
昭和25年に小林金吾翁の編で私家版として出た『農用気象学入門』は、杉山師の『農用気象学講義』を更にダイジェストにしたような内容の小冊子であるが、本書の第三版(昭和41年)を庵主は山形のさる篤農家より複写して分けて頂いた事がある。
この中に農用気象学応用の実際を記した箇所があるので、一例として太陽寒水司天の年(辰・戌)の天候予測と農事応用について転載させて頂く。
ただし、同書には六年周期の主気と客気との組み合わせしか載せられておらず、実際の運用においては、ここに五運(木火土金水)の太過と不及とを兼ねて考えないと正確ではなく、また、予測は東北という地域性が加味されている点を考慮すべきであり、あくまでも農用気象学の雰囲気を理解する為の参考としてのみ引用したことを書き添えておく。
なお、文中〔原本〕とあるのは、先に紹介した『農用気象学講義』を指す。
また、明らかな誤植には訂正を加えた。
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◎初の気…少陽相火(大寒中より春分中即ち1月21日頃より3月21日頃までの天候)
〔原本〕この時大いに暖かにして草木早く盛え人身発熱温疫多し。
註…この気間は少陽相火の循環で真夏の気象の巡りであるから平年より比較的温かにして天気つづき降雨少なく日中は温和なれども朝夕夜間は至って寒気厳烈なり、東北降雪少なく関東雨少しいづれも草木の萌芽平年より早し。種甘藷、馬鈴薯の取扱注意肝要なり。
◎二の気…陽明燥金(春分中より小満中即ち3月22日頃より5月22日頃までの天候)
〔原本〕この時春夏と雖も大いに涼しく温気ひらかず、温と冷と時ならず行われ秋の如く草木いたみ人身も冷病腹脹を病む。
註…この気間は陽明燥金の循環で秋の気象の巡りなれば、返り天気にて四月中旬頃から寒冷の襲来ありて、霜降り薄氷張り苗代発芽発育不良苗失せる事あり。引きつづき冷気にして草木枯凋することありと知るべし。東北地方苗代の播種晩きを良とす。苗代は薄まきとし燻炭を必ず施用して温水を利用健全苗を作るべし。胡瓜、南瓜、夏蔬菜定植急ぐべからず。晩霜に注意。
◎三の気…太陽寒水(小満中より大暑中即ち5月23日頃より7月23日頃までの天候)
〔原本〕この時大いに寒気行われ雨降り暑気少なく、雷鳴り雹降る。元気不足の人は尤も養生すべし。
註…この気間は太陽寒水の循環で寒中の気象の巡りなれば寒暑相争いて小満前後晴天あるも6月より曇天寒冷にして夏と雖も綿入の必要を感ず。引続き冷気にして稲の活着分けつ宜しからず。故に速効性肥料と基肥本位として稲の生育を促進せしむるを可とす。
瓜類、いも類、豆類は茎葉延び過ぎるから高畦よろし。
◎四の気…厥陰風木(大暑中より秋分中即ち7月24日頃より9月24日頃までの天候)
〔原本〕この時風吹きて物損い雨降り万物生化す。人身も風湿の病あり。
註…この気間は厥陰風木の循環で早春の気象の巡りなれば、風吹き時に雨降り早春の如き気候を呈し万物生化すと雖も8,9月の候に大風吹き万物を損ない稲作に被害も多かるべし。既往の記録を案ずるに昭和9年は同気の年にて東北地方冷害なりしも平年は降雨少なくダシ風続くか所により旱害となることあり。反対に関東地方は降雨曇天冷風のため稲作面白からず。稲田落水早め成熟を進めれば危難を免れん。秋蔬菜平畦よろし。
◎五の気…少陰君火(秋分中より小雪中即ち9月24日頃より11月23日頃までの天候)
〔原本〕この時秋冬の季と雖も温かにして草木長じ人身もゆるやか熱病はやる。
註…この気間は少陰君火の循環で梅花の咲く春の気象の巡りなれば温かにして天気つづき雨湿少なく稲の刈取良きも一般減収なるが如し。努めて改良を行うべし。紫雲英の発芽悪しく白菜結球不良、秋蔬菜一般に宜しからず。麦類、菜種等発育よろし。
◎六の気…太陰湿土(小雪中より翌年大寒中即ち11月23日頃より1月21日頃までの天候)
〔原本〕この時湿りつよく行われ、天曇りて晴れず雨しげく降りて寒風至る人身も寒湿の病あり。
註…この気間は太陰湿土の循環で夏土用後湿気のめぐりなれば曇天、雨湿、降雪多く時に雷雨あらん。麦類の発育分蘗不良なれば、播種を早め移植おくれるな。従って麦ふみ中耕追肥を降雪前に行う裏作の発育を促進せしむれば利あり。
結局この年の収穫予想は水稲早生七分、中生七分、晩生六分、麦類六分、大小豆六分、粟、胡麻七分、瓜類六分、馬鈴薯六分、甘藷七分、秋蔬菜六分と予想す。
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