『喫茶養生記』粟島行春訳註
- 2019/06/07
- 18:09
『喫茶養生記』粟島行春訳註(盛文堂/1989年刊)
栄西禅師(1141~1215)と言えば、日本における臨済宗の開祖として、名前くらいなら小学生でも知っていよう。
頭の角ばった肖像は中々に印象的だが、鎌倉仏教の大物は親鸞にしろ道元にしろ、皆変な顔をしていて面白い。
その栄西は、我が国の医家先哲を祀った医聖堂にも合祀され、橘輝政の日本医学先人伝もまた紹介する医学先人260名のうちに含めて記述しているのだが、これはその著述に『喫茶養生記』あるに拠ってである。
今日、喫茶店に入っても、主力商品はあくまでコーヒーであって、抹茶はまず注文出来ないが、本来“喫茶”とは、ツバキ科チャノキから作られた“茶”を喫するという意味であるのは読んで字の如しだ。
本書は、茶を“養生の仙薬”として、その効能を礼賛したものであるが、昔の喫茶の習慣なども記述されており、史料としても中々面白い。
たとえば、広州では大変上等の茶を産し、食前に檳榔子を沢山食べて、食後にお茶を沢山飲むといい、檳榔子と茶を貴重なものだとしているが、檳榔子は非常に苦味が強くて、我々の口にする御茶菓子が甘ったるいのとは対照的である。
また、本書はお茶の効用ばかり書いている本と思われがちであるが、巻之下は主に桑の薬効を説いていて、桑粥やら桑の削り屑を入れた桑酒やら、桑で作った枕までが賛美されている。
桑は普段我々の口に入ることはあまりないが、山では野生のものを時折見かけるので、試してみようと思わぬでもないものの、「日本の桑は頗る力微なり」とあって自生種はそれほどの効き目を期待出来ないようだ。
人気のある本なので、色々な人が訳註を試みているが、私は粟島先生の訳本で読んでいる。
『喫茶養生記』には承元五年(1211)の初治本と、建保二年(1214)の再治本があり、再治本は茶盞に添えて将軍家に献納したもので、世間一般には初治本を重要視する傾向にあるらしいが、本書は、将軍に献納するために書き直ししてある事を重視して、あえて再治本を底本に採用している。
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