銀翹散
- 2019/07/13
- 08:36
咽痛の薬方と言えば、『傷寒論』の少陰病篇に、甘草湯と桔梗湯という二処方があって、甘草湯が初期で軽証、桔梗湯はそれよりやや邪が内攻した証ということになっている。
最初の頃はそう信じて喉風邪をひく度に服用してみたのだが、どうした訳か巷で言われているようには「効いた」という手応えを感じられずに居た。
これは煎じ薬に変えてみても同様であったが、勝昌製の散剤を使うようになって、試しに銀翹散のボトルを取り寄せて飲んでみたところ、これが実によく効く。
日本漢方古方の立場からすれば、銀翹散の服用など恥に等しいような気もするが、効くものは効くのである。
この処方は保険適用になっていないから、漢方治療をやっている医師でも意外に飲んだことがないという人も結構居るらしく、取り寄せの機会がある度に勝昌製を勧めてみたり、自分でも小分けして差し上げたりしたこともあるが、みな一様に「確かによく効く」と言う。
庵主は、咽痛を感じた時は本方の服用に先に書いた花梨酒のうがいを組み合わせて対処していて、この二つを組み合わせれば當に鬼に金棒だ。
ところで、銀翹散は、清代の呉鞠通(1758~1836)が著わした『温病条弁』を出典とする薬方で、比較的新しい部類に入るものであるが、中国では家庭の常備薬的なものとなっているらしい。
日本では漢方と言えば葛根湯が常備薬的な存在であると思うが、中国では葛根湯は風邪薬ではなく肩凝りの薬という扱いだそうで、伝統薬物療法における日中間の相違が大きいことを家庭薬レベルで見せつけられる思いがする。
ところで、「温病」には狭義の温病と広義の温病とがあって、『素問』や『傷寒論』に見える狭義の温病は、冬に罹った傷寒の病がすぐに発病せずに、春まで持ち越してから発証するもので、明清の時代に発展した所謂温病学でいうところの温病は温邪による外感病であり、必ずしも春の発病には限定されない。
銀翹散は、咽痛を伴っていれば、冬だろうが春だろうが殆ど馬鹿の一つ覚えの如くに使えて、それでいて頗る良く効く(というのがこれまでの実感である)。
漢方を勉強し始めた初期の頃、親しくして頂いた先生が「銀翹散なんて…」と小馬鹿にしていたので、実際に飲んでみるのが随分遅くなってしまったが、本来古方派の身上とするところは“親試実験”、先入観に囚われずに先ず試してみるべきであることを痛感させられる。
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