『団地』
- 2019/09/20
- 18:25
華岡青洲は、世界初の全身麻酔による乳癌の摘出手術によって其の名が知られているが、実際には漢蘭折衷の医家で、所謂蘭方医ではないことを読者諸賢はよく知っている筈である。
ところが、『華岡青洲の妻』は、麻酔薬の開発が主たるテーマで、烏頭や蔓陀羅花に僅かに言及される他は漢方医としての青洲が全くと言って良いほど描かれておらず、在京時代には吉益南涯に師事して古方を学んでいるのだが、吉益の「よ」の字も出てこないのは、我々には如何にも淋しい。
せめて紫雲膏や十味敗毒湯をチラリとでも登場させて欲しかったと思うのは、庵主一人ではなかろう。
そこで、漢方が主題という訳ではないものの、主人公夫婦が元漢方薬局経営者である為に、少なくとも『華岡青洲の妻』よりは漢方(正確には生薬と言うべきか)が登場する映画『団地』をご紹介することにした。
吉永小百合主演の『北のカナリアたち』の阪本順治監督の作品で、2016年と新しい映画だから、観てはおらずとも、タイトルだけは知っているという人も多いのではなかろうか。
三谷幸喜の映画みたいに賑やかなコメディではないが、途中からSFも介入して来て中々面白い作品となっている。
宇宙人の依頼に応えて、薬名こそ出てこないが、下痢止めの丸薬を製造するシーンなど、漢方の自家製剤をやっている人には特に楽しいシーンだろう。
漢方への未練から捨てきれずに床下収納庫に仕舞い込まれている生薬に、「天南星」や「阿膠」「防已」といった薬名がチラリと見えるシーンがあるのも嬉しい。
漢方薬指導・協力として日本漢方協会と、今井淳・三上正利両先生のお名前がクレジットされている。
名作とまでは言えないけれど、漢方を抜きにしても楽しめるまずまずの秀作・佳作とは言って良いと思う。
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