『宋以前傷寒論考』岡田研吉他著
- 2019/12/05
- 18:27
『宋以前傷寒論考』岡田研吉他著(東洋学術出版社/2007年刊)
『傷寒論を講義してみた』をご紹介したついでに、もう一冊私の好きな傷寒論本『宋以前傷寒論考』を取り上げさせて頂く事にした。
本書は、『太平聖恵方』を始めとする種々の古典医書に引かれた仲景方に関する記述を突き合わせ、原『傷寒論』の姿を復元せんと試みた意欲作で、厳密極まりない考証学の手法を用いた復元作業という点で、まさに江戸考証学派の直系の嫡子とでも言う他ない優れた業績である。
『傷寒論』の復元としては、王安堂の『医経溯洄集』を嚆矢として、それこそ汗牛充棟の様相を呈しているが、殆どは条文を仲景の手に成る正文と後人による攙入とに個人の判断で弁別する作業にとどまっており、本書の如く徹底した考証学的手法を全面に取り入れたものは、過去には皆無であったように思う。
本書は、多くの証拠を挙げて、『傷寒論』における宋改という過程が、単なる校訂事業にとどまらず、中核となる医学理論の大胆極まりない改変を伴ったものである事を立証していて、従来の『傷寒論』解釈に基く漢方治療を行っている臨床家諸氏をしばしば愕然とさせるところがある。
これからの『傷寒論』研究は、本書を出発的としなくてはならないだろう。
ところで、私の習った先生も最晩年に此の本を手にされて、大いに感じるところがあったものらしいけれど、不幸にも程なくして病に倒れられた為、その研究に此の労作の成果が反映される機会を見なかったのは返す返すも残念でならぬ。
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