『漢易研究』鈴木由次郎著
- 2020/02/16
- 21:12
『漢易研究』鈴木由次郎著(明徳出版社/1963年初版)
鈴木由次郎先生の『漢易研究』は、此の分野を知るのに最初に紐解かねばならない、というよりは、漢易を知る為の邦文で著された唯一の文献であると言って良いだろう。
そもそも同分野の述作としては、他に小沢文四郎先生(1911~ ??)の『漢代易学の研究』(明徳印刷/1970年刊)、辛賢先生(1967~)の『漢易術数論研究』(汲古書院/2002年刊)があるのみで、漢易についての基本事項は殆ど本書一冊に説き尽くされていると言って過言ではない。
1961年に広島大学より文学博士号を授与された際の博士論文が「漢易研究」だそうだから、或いはそれを核にして成ったものが本書であろうか。
その筆致は、左伝筮話および『史記』『漢書』が載せる伝易の系譜より説き起こし、施・孟・梁・京の主要漢易諸家および消息・卦気・世応・爻辰といった象数易の複雑怪奇なる諸概念、更には其の延長線上に派生した『太玄経』『焦氏易林』『周易参同契』等の諸書にも及んでいる。
漢易は其の後の断易に直結して行く諸理論を内包するものであるが、もともとは卦爻の辞を解する為に、複雑な操作を駆使してコジツケを行う牽強付会の体系であり、断易家でない庵主としては暦と易の諸機構を合致せしめんとする試みであった事が判ればそれ以上の興味は引かれぬものの、漢代に『易経』が他の経書を抑えて五経の首位に躍り出た事、また魏晋以降の易学でさえ、象数易に対する反動という意味では其の影響を免れぬ点を考えるに、易に関心を持つものは本書によって漢易の全体像を頭に入れておくべきであると思う。
古書価は高いが、稀覯書の類ではないので、是非、お手に取って頂きたい名著である。
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