真勢易も研究していた高島嘉右衛門
- 2014/02/26
- 17:23
明治二十四年四月十日。余清晨無事。たまたま新聞及雑誌を閲するも、未だ幾くならずして意倦む。書を抛ちて起つ。此の風日清和を愛し、遊興の念発し、将に近県に赴き春光を探賞せんとす。行に臨み偶ま一筮を試む。
睽上九。睽孤。見豕負塗。載鬼一車。先張之弧。後説之弧。匪寇婚媾。往遇雨則吉。
断じて曰く。睽孤。なお余の孤身独行を云う也。見豕、載鬼、張弧、説弧とは其の目見ることの無定形なるを云う。なお余が游跡の定所無きを示す也。余是の日出游し神奈川停車場に憩う。或は横須賀に赴き或は箱根湯本に赴くか、意なお未だ定らず。車に登るに至りて乃ち箱根に往かんと決す。
車中適ま東京旧友に遇う。某氏大阪に赴かんとす。並坐して易を談ず。興味頗る好し。余遂に意を改め、大阪に趨く。翌日食後に市中出游。将に書肆に就き古書を閲覧せんとす。心斎橋を過ぎ鹿田書店を訪う。問うに易書珍本を以てす。主人出て松井羅州著す所の周易解故を示す。此書は余が往年偏に覔ねて得ず。今之が購するを得たり。又示すに松井氏著す所の周易釈故、及び真勢中州著す所の周易大伝等を以てす。
是れ皆読易家の珍とする所、書面小島氏蔵書の一印有り。余其の出処を叩く。主人曰く。昨西京の古書肆に於て購う。此書は皆小島氏旧蔵に係り、其の子父の書を読む能わず。故に之を鬻ぐ。余曰く。子の外に購を同じくする者ありや。主人曰く。西京麩屋町の書林某及東京書林某、相ともに分つて之を買う。余乃ち悉く其の価を以て之を購う。
後に西京に赴き又麩屋町の書肆に就く。凡そ小島氏遺本、又悉く之を購う。帰東して書肆琳琅閣を訪い、又小島氏易書三種を得る。是に於て小島氏遺書悉く皆余に帰す。余益々易辞の精切なるを感ず也。爻の所謂鬼を載すること一車とは鬼に非ず、乃ち書なり。雨に遇うとは旧雨なり。即ち車中遇う所の旧友なり。所謂雨に遇えば則ち吉なりとは此れなり。
(中国語版『高島易断』より。読み下しは田中洗顕先生の訳文に拠った)
スポンサーサイト