『孔子暗黒伝』諸星大二郎著
- 2020/07/16
- 18:15
『孔子暗黒伝』諸星大二郎著
若年の頃は『易』など読むと頭が悪くなるという理由で敬遠していたとされる狩野直喜(1868~1947)も、『論語』述而に従って、五十にして『易』を読み、七十にして大変好んだというが、庵主の場合、まず最初に手を付けた儒教経典は『易』で、『論語』を読んだのは随分後になってからだから、経典の読み方としては、王道(?)とは真逆の手順を踏んだ事になる。
が、白状すれば、『易』より『論語』よりずっと早くに触れた孔子関連文献があって、その書物こそ今日ご紹介する諸星大二郎(1949~)の『孔子暗黒伝』なのであった。
勿論、これは作者の創作物と言って良い作品で、本来孔子関連文献として取り扱うべきものではない。
しかし、この中には『論語』からの引用が約50カ所もあり、『論語』を読んでから目を通すと、以前よりもずっと面白く読める事を凡そ十年ぶりに再読して実感している。
実は、陽虎や狂接輿らの画は此の作品より拝借させて頂いた。
長沮・桀溺も失敬したかったところなのだが、この渡し場の所在を問う名シーン(?)は、何故か人物が老子に差し替えられていて止む無く断念したのである。
それにしても、40年前は『ジャンプ』にも、かかる作風のものが連載されていたと思うと、今更ながらに隔世の感を禁じ得ない。
昨今の『ジャンプ』は単細胞な格闘物で占められていて、失礼ながら読む気すら起きないが、昔はこんな古史に材を取った重厚感のある作品が連載されていたのである。
もっとも、物語も後半になると破綻を来し、もう何がなんだかよく判らなくなってきて奇妙な余韻だけを残して終劇となるのだが、まさかそれも『論語』に範を取ったものかと勘繰りたくなってしまう。
それはさて置き、この作者独特の下手糞な画風がまた味わい深く、作品の怪奇趣味に良い雰囲気を与えているように思われる。
物語の冒頭、周代の遺跡中で子供が食っている干肉のようなものも気色悪いが、金縷玉衣を纏った陽虎も同じ頃に観た香港クズ映画『キョンシー大魔王』と重なって、若き日の庵主に忘れがたい印象を残したものだ。
しかし、再読して何より慨嘆せざるを得ないのは、日本文化の衰微は活字本のみならず、漫画にさえ良く表れているという事だろう。
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