鬼神の嫉み
- 2021/02/07
- 13:20
北斉の顔之推が著わした『顔氏家訓』の雑芸篇に卜筮について面白い事が書いてある。
(訓読)
卜筮なる者は聖人の業なり。但だ近世は復た佳師無く、多くは中つ能はず。古者は卜して疑ひを決せしも、今人は疑ひを卜に生ず。何者、道を守り謀を信じて、一事を行はんと欲するに、卜に惡卦を得れば、反りて恜恜たらしむ、此れの謂か。且つ十に六・七を中つれば、以て上手と爲し、粗々大意を知れば、又 委曲せず。凡そ奇偶を射すれば、自然に半ばに収まる。何ぞ賴るに足らんや。世傳に云ふ、「陰陽を解する者は、鬼の嫉む所と爲り、𡒄に坎ち貧窮して、多く泰に稱はず」と。吾 近古より以來を觀るに、尤も精妙なる者は唯だ京房・管輅・郭璞のみ。皆 官位無く、或いは災に罹るもの多し。此の言 人をして益々信ぜしむ。
(現代語訳)
卜筮というものは聖人の業である。ただ近ごろはまた(これを)よくする師がおらず、多くは当てることができない。古は(『春秋左氏傳』に見えるように)占卜により心にある迷いに決断を下したが、今の人は疑いの心を占卜によって生じさせている。なぜかといえば、(本来は)道を守り深い思慮を信じて、あることを行おうとするのに、占卜で悪い結果が出ると、かえってびくびくした気持ちになる、これを言っているのである。また十のうち六・七も的中すれば、上手といわれ、ほぼ(占った内容の)大意を知れば、細かいことは問題にしない。およそ奇か偶か(半か丁か)を当てようとするなら、自然とどちらか半数に収束するものである。(その程度ならば占いは)どうして依拠するに足りようか。世に伝わる言には、「陰陽を理解するものは、鬼神がねたむところとなり、思うようにならず不遇で困窮し、多くは泰(内外に通じて安んじた状態)とは言えない」と。わたしが近古より以来を管見してみるに、もっとも(占卜に)精妙だったのは京房・管輅・郭璞だけである。(しかし)いずれの人物も官位は低く、災厄を被る者が多かった。(したがって)この世に伝わる言は人にますます(占いなど碌な目に合わないというのが)本当であると信じさせる。
卜筮が出来る者は鬼神に嫉まれて、その結果不幸な運命に見舞われるのだという。
頼長や通憲の如き希代の碩学にして卜筮を能くした者たち同様、その殆どが薄幸そうにしか見えない世の易者連もまた鬼神の嫉みを受けた結果であるのかどうか私は知らない。
彼らが嫉みを受けるほど陰陽の道を解する者に該当するのかどうか疑問に思うからだ。
(訓読)
卜筮なる者は聖人の業なり。但だ近世は復た佳師無く、多くは中つ能はず。古者は卜して疑ひを決せしも、今人は疑ひを卜に生ず。何者、道を守り謀を信じて、一事を行はんと欲するに、卜に惡卦を得れば、反りて恜恜たらしむ、此れの謂か。且つ十に六・七を中つれば、以て上手と爲し、粗々大意を知れば、又 委曲せず。凡そ奇偶を射すれば、自然に半ばに収まる。何ぞ賴るに足らんや。世傳に云ふ、「陰陽を解する者は、鬼の嫉む所と爲り、𡒄に坎ち貧窮して、多く泰に稱はず」と。吾 近古より以來を觀るに、尤も精妙なる者は唯だ京房・管輅・郭璞のみ。皆 官位無く、或いは災に罹るもの多し。此の言 人をして益々信ぜしむ。
(現代語訳)
卜筮というものは聖人の業である。ただ近ごろはまた(これを)よくする師がおらず、多くは当てることができない。古は(『春秋左氏傳』に見えるように)占卜により心にある迷いに決断を下したが、今の人は疑いの心を占卜によって生じさせている。なぜかといえば、(本来は)道を守り深い思慮を信じて、あることを行おうとするのに、占卜で悪い結果が出ると、かえってびくびくした気持ちになる、これを言っているのである。また十のうち六・七も的中すれば、上手といわれ、ほぼ(占った内容の)大意を知れば、細かいことは問題にしない。およそ奇か偶か(半か丁か)を当てようとするなら、自然とどちらか半数に収束するものである。(その程度ならば占いは)どうして依拠するに足りようか。世に伝わる言には、「陰陽を理解するものは、鬼神がねたむところとなり、思うようにならず不遇で困窮し、多くは泰(内外に通じて安んじた状態)とは言えない」と。わたしが近古より以来を管見してみるに、もっとも(占卜に)精妙だったのは京房・管輅・郭璞だけである。(しかし)いずれの人物も官位は低く、災厄を被る者が多かった。(したがって)この世に伝わる言は人にますます(占いなど碌な目に合わないというのが)本当であると信じさせる。
(汲古書院『全譯顔氏家訓』に拠った)
卜筮が出来る者は鬼神に嫉まれて、その結果不幸な運命に見舞われるのだという。
頼長や通憲の如き希代の碩学にして卜筮を能くした者たち同様、その殆どが薄幸そうにしか見えない世の易者連もまた鬼神の嫉みを受けた結果であるのかどうか私は知らない。
彼らが嫉みを受けるほど陰陽の道を解する者に該当するのかどうか疑問に思うからだ。
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