『スーフィーの物語』イドリース・シャー編著
- 2021/05/28
- 18:38
『スーフィーの物語』イドリース・シャー編著(平河出版社/1996年刊)
先週、思うところあって其の昔平河出版社から出ていた『スーフィーの物語』を読んでいた。
スーフィーというのはイスラム教に於ける神秘主義で、教条的にコーランを墨守する主流のムスリムとは一線を画し、修行によって神との合一を果たそうとするものであり、現在ではこれも様々な流派に分かれている。
編著者のイドリース・シャー(1924~1996)は西洋にスーフィズムを紹介した代表的な人物の一人で、英文での多くの著述があり、長らく邦訳が待たれていた主著『スーフィー』は2000年に国書刊行会より刊行された。
本書は、スーフィーの様々な寓話を集めた本だが、よくあるイスラムジョーク集の如き笑い話とは全く違っており、何れも求道者の為に書かれたもので、スーフィズムは東洋の禅と似たところがある為、禅に於ける公案(所謂禅問答)に近いものと言えば言えぬ事もない。
と言っても、人を食ったようなところのある公案の小噺とは違いもっとシンプルで、イスラムについての知識に乏しい我々異教徒が読んでもすんなり理解出来て、心に響くものばかりだ(或いはシャーが西洋人に理解可能なものだけ寄り集めたという事かもしれないけれど)。
今日この書物を取り上げたのは、ここに収められた寓話が多く師と弟子の関係を扱っているからで、師は弟子を如何に導くか、弟子は如何に学ぶかを考える上で、示唆に富む事多大なものがある為である。
説かれているのは真理という甚だ高尚な目標へ至る道であるけれど、師弟の関係は具体的な技術や学問の上にも何ら変わることなく共通しているのであって、教える者も教わる者も知らなければならない原則が此の本の至る所で示されていると言って良い。
本書を推す所以である。
ところで、それぞれの寓話には末尾に原作者とされる人のごく簡単な略歴が載せられていて、多くは霊廟の所在について触れている。
掃苔家への便宜という訳では勿論なく、巡礼者を意識した親切なのだと思うけれど、儒教的な先祖崇拝などやらない一神教の人々も霊廟というものを大いに尊重するのが異教徒たる私などには少々意外な気もする。
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