蒼流庵筮筒を制作

お道具類に凝っていたのは六年ほど前の事だが、以降の数年で筮具職人が高齢化により一斉リタイアしたのか、新品のまともな筮具が入手出来ないようになっているのを知り、驚かされた。

蓍策、算木と来ればお次は筮筒（正式には櫝ないし韇）だろうが、バズーカみたいな恰好の御世辞にも品があるとは言えないものしか買えなくなっているらしい。

そこでさる信州のろくろ細工の名工に依頼して制作してもらう事に。

上越の某茶人に紹介してもらった工房であるが、とにかく品質がずば抜けている上に安価なので以降何かにつけ制作をお願いしている。

本当は黒柿で作ってみたかったのだが、筮筒を制作可能な径の材がないとのことで、定番の桑と槐でお願いした。

左：槐　　　　右：桑

見本として手元にあった紀藤先生の御遺品を送付して作って頂いた為、事実上は紀元書房製のレプリカといったところだが、正直出来はこちらの方がワンランク上の印象で、細部まで名工の匠の技が光っている。

桑と槐の判り易い違いは槐には芯がある点で、これは木目が美しくて好まれる事に加え、槐の場合、芯を外すと反りがかなり出てしまう為に中心部のみ用いるということだ。

比重の関係で槐のほうがずっしりとした重量感があり、安定度の点で言うと筮筒の材としては槐に軍配が上がるが、素材としての希少性は桑のほうがずっと高いらしく、桑は筮筒に出来るような材はそう簡単には入手出来ないらしい。

ちなみに、この工房ではペーパーがけは行わず、昔ながらの木賊を用いた表面処理を行っている。

いずれも槐であるが、右がナチュラルな状態、中央が表面を焼いて焦がしたもの、左が焼き＋亜麻仁油フィニッシュ。

オイルフィニッシュを施すと、木目の雰囲気が分かりにくくなって市販品に近くなってしまうが、そこはお好み次第だろう。

槐製の焼き（右）と、焼き＋亜麻仁油（左）

桑製の焼き（右）と、焼き＋亜麻仁油（左）

ところで、昨今の主流となっているバズーカ筮筒は写真で見た限り、台座と筒とで木目が合っていないように見えるのだが、或いは別々に作って接着しているのかもしれない。

殊に表面を塗装したものは木目も接合部も分からなくなるので、接着の可能性がありそうな気がする。