曲阜の蓍草
- 2022/01/20
- 18:06
これまで幾度となく書いてきたことであるから、もう書く方も繰り返しに些かうんざりしているところもあるのだけれど、現在「蓍」の基原について中国ではキク科ノコギリソウを以て是れに当てており、和名の「メドハギ」とは全く異なった植物がそれだとしている。
庵主が此の中国での比定に否定的であるのも既に読者諸賢の知る所と思うが、これにはもう一つの傍証があって、それを今日は披瀝してみたい。
大正八年、林泰輔博士(1854~1922)が曲阜の孔子聖廟に詣でたとき、林中より蓍草の芽を持ち帰って育て、それを湯島聖廟に移植したという有名な話があって、色々な本にも見えているのだけれど、この林博士によって持ち帰られた蓍草というのはどのようにして蓍と同定されたのであろうか。
そもそも植物学者でもない人が幾ら偉い博士様とはいえ、幼芽の状態を見て、それが何であるのか判別するなど出来っこない訳で、現地の誰かに吹き込まれたものであるのか、ここからして私には解らないのだが、管見の限りでは蓍草が孔子廟附近に分布すると記している本草書にお目に掛かったことがないので、この辺りも何やら腑に落ちぬところがある(ちなみに林博士は成長した蓍草はノコギリソウやメドハギなど従来比定されてきた何れにも該当しなかったと不信を誘う証言をしている)。
また、ノコギリソウは海抜1000~2500mの高地に分布する植物であるが、孔子廟のある曲阜市(中華人民共和国山東省済寧市)は僅かに標高65mというから、どう考えてもノコギリソウが分布しているとは思われない(勿論植栽なら話は別であるが)。
加えてもう一つ気になることがある。
矢部吉禎博士(1876~1931)が『斯文』第四編第二号に「曲阜の植物」という短文を載せ、チョウジカズラ以下、孔林に見られた草本17種を挙げているが、そこにノコギリソウの名はなく、代わりにヒメメドハギ・オオメドハギ(鉄掃箒)が見えている。
矢部博士は素人の林博士と違って植物学の専門家であるから、余程信頼できる証言のようだが、ヒメメドハギ・オオメドハギというのは、(鉄掃箒)としてあることに加え、和名からしてもノコギリソウではなくメドハギの一種であろう(この二種の和名で検索してもヒットしない。古い大陸の植物に関する資料に当たってみる必要がある)。
たとえ、曲阜の孔子廟に蓍草のあるを信ずるとしても、やはりそれはノコギリソウではなくメドハギの仲間であると考えられるのである。
或いは、林博士が持ち帰って栽培したのが、まるで見当はずれなものであったとしたら、ノコギリソウでもメドハギでもなかったというのは有り得る話だろう。
庵主が此の中国での比定に否定的であるのも既に読者諸賢の知る所と思うが、これにはもう一つの傍証があって、それを今日は披瀝してみたい。
大正八年、林泰輔博士(1854~1922)が曲阜の孔子聖廟に詣でたとき、林中より蓍草の芽を持ち帰って育て、それを湯島聖廟に移植したという有名な話があって、色々な本にも見えているのだけれど、この林博士によって持ち帰られた蓍草というのはどのようにして蓍と同定されたのであろうか。
そもそも植物学者でもない人が幾ら偉い博士様とはいえ、幼芽の状態を見て、それが何であるのか判別するなど出来っこない訳で、現地の誰かに吹き込まれたものであるのか、ここからして私には解らないのだが、管見の限りでは蓍草が孔子廟附近に分布すると記している本草書にお目に掛かったことがないので、この辺りも何やら腑に落ちぬところがある(ちなみに林博士は成長した蓍草はノコギリソウやメドハギなど従来比定されてきた何れにも該当しなかったと不信を誘う証言をしている)。
また、ノコギリソウは海抜1000~2500mの高地に分布する植物であるが、孔子廟のある曲阜市(中華人民共和国山東省済寧市)は僅かに標高65mというから、どう考えてもノコギリソウが分布しているとは思われない(勿論植栽なら話は別であるが)。
加えてもう一つ気になることがある。
矢部吉禎博士(1876~1931)が『斯文』第四編第二号に「曲阜の植物」という短文を載せ、チョウジカズラ以下、孔林に見られた草本17種を挙げているが、そこにノコギリソウの名はなく、代わりにヒメメドハギ・オオメドハギ(鉄掃箒)が見えている。
矢部博士は素人の林博士と違って植物学の専門家であるから、余程信頼できる証言のようだが、ヒメメドハギ・オオメドハギというのは、(鉄掃箒)としてあることに加え、和名からしてもノコギリソウではなくメドハギの一種であろう(この二種の和名で検索してもヒットしない。古い大陸の植物に関する資料に当たってみる必要がある)。
たとえ、曲阜の孔子廟に蓍草のあるを信ずるとしても、やはりそれはノコギリソウではなくメドハギの仲間であると考えられるのである。
或いは、林博士が持ち帰って栽培したのが、まるで見当はずれなものであったとしたら、ノコギリソウでもメドハギでもなかったというのは有り得る話だろう。
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