めどはぎ
- 2022/07/07
- 18:12
『易学研究』昭和47年7月号見返しに「めどはぎ」と題した加藤大岳氏の短い随想が掲載されている。
昨年の夏の初め頃、河原忠幸氏から“めどはぎ”の鉢植えにした一株を頂戴した。
それは信州の蓼科あたりで採取されたもので、御前進講の栄に浴されたこともある植物学の泰斗が「まさしく“めどはぎ”である」と折紙を付けられたものであるということであつた。
金曜講座で皆んなに見せ、いまに大きく育つたら一株づつ分けて進ぜようなどと大法螺を吹いたが、ともかく丹精の甲斐があつて、戴いたとき20センチぐらいであつたものが、秋の終り頃には45センチぐらいに叢がり育つていた。
ところが、紀元書房の二階の窓の外に置いて陽に当てていた其の鉢が失くなつていた。よもやと油断していたのが不覚で、突風のために吹き飛ばされたのである。
風の強い日であつた。伸び育つた枝葉は強い抵抗をしたのだろう。
それに気が付き急いで道路に下りてみると、哀れや我が“めどはぎ”は、茎は鋏でチヨン切られ、階下の洋服素地屋の店頭に、サイダーの空缶の中に活けられていた。聞けば、鉢は粉々に壊れ転がされていたので通行人が落していつたものと思い・ということであつた。
それで根は?と急き込むように尋ね、トイレの隅に片付けられていた其の根を、花咲爺さんが臼を焼いた灰を貰うような気持で、持ち帰つて土の中に埋め、必ず芽を出すようにと祈った。
幸い其の根から芽を出し、今は15センチぐらいに育つている。博物誌には蓍千歳三百茎とあるそうであるが、38名の金曜講座の諸君に一株づつ分け得るのは果して何時の日か。
わざわざ信州の蓼科辺りで採取して鉢植えを送ってくれた御奇特な御仁が居たものらしい。
御進講経験者の植物学の泰斗というのが何人のことか判らぬが、泰斗氏が「めどはぎ」だと折紙を付けているというのだから、メドハギ其の物ズバリで、中国に於いて蓍の基原に当てられているノコギリソウなどでないことは間違いなかろう。
この鉢植えの株を増やして38名に分けるというのは中々気の遠くなりそうな話であるが、所詮はありふれた雑草に過ぎないメドハギさんが大変に有難がられている様子が伝わって来て微笑ましい。
振り替えれば十年前には自分も初めて発見したイノコヅチをどれだけ慎重に掘り採って持ち帰ったことか。
御大の植栽の試みが成功したのかどうか、続編を目にしない為に恐らくは成功を見なかったのではないかと想像するが、もしこれが首尾よく行って38名に配られたなら、植物の世界では単なる雑草に過ぎずとも、講座受講者諸氏には此の上なく有難い立卦具となったに違いない。
スポンサーサイト