KRK35
- 2022/07/16
- 19:08
木藤謙さんから最初に頂いた筮具類の中に汎日本易学協会が創立三十五周年を記念して制作したケロク器があり、その顛末が『易学研究』昭和46年10月号の「得卦の個殊性」に見えて居る。
汎日本易学協会が創立されてから今年が三十五周年に当ります。それで、それを記念する集りをしようということになりました。
二十周年、三十周年のときは、記念祝賀会の折に、参会者に小型算木だとか、ふくさ(算木敷きに代用)などを記念品として贈りましたが、こんどは何にしようかという話が出たとき、居合わして居られた会津の小野祐護氏から掛扐器(ケロクキ=揲筮の折に分けた筮竹を載せかける道具)にしてはどうでしようかという提案がありましたが、他にも、旅行用の懐中目覚まし時計(卦ハ時ナリとの古人の言あり)とか、万年筆などの提案があり、その折には決定せずに、更に考案しようということになりました。
後で何を撰んだらよいか、試みに筮してみますと、けろく器は鼎上九が出たので、これがよかろうと、次の理事会の折に、みんなに諮つて、それに決定しました。
此のけろく器に就ては、因縁ばなし・というほど大袈裟なことではないけれども、小野氏からは話が出る“わけ”があったのです。
もう二年余りも前のことになりますが、柳下尚範氏から、親しい指物大工に作らせたと言う大刻・小刻組合わせたものを二組頂戴しました。―― それは恐らく谷川竜山の『周易本筮指南』に描かれている図に基づいて作られたもののように見受けられました。
白木の素地のままのもので、それは清潔な感じがしてよいのですが、ただ難を言えば、使つているうちに手垢のために汚れの出る惧れのあることでした。それで私は、懇意な漆工家に頼んで、漆を塗つて貰うように、小野氏にお願いをしました。―― 二組のうちの一組は小野氏に呈上するという約束をして。
ところが、それが幾ら日が経つても出来あがつて参りません。小野氏には別に催促もしませんでしたが、小野氏は柳下氏に「先生から頼まれている・けろく器が、なかなか出来あがらないので困つている」と、こぼして居られたということです。
懇意な漆工家は直ぐに塗りを引受けてくれたものの、僅か二組ばかりの仕事に、わざわざ漆を拵えたりする手隙が無いとみえ、何時まで待つても埒が明きそうにもないので、引取つて・また、別の漆工家に頼んだところ、そこでも引受けてくれたものの、これもまた、何時塗りに掛つてくれるのか判らない。そんなことを何軒もの漆工家のところで繰返しているうちに、もう二年余りも経つてしまつたという話の模様でした。漆工家と言つても、今は手工芸などではなく、量産の工場化しているので、けろく器の二組ぐらいの仕事では、厄介がられているのでしよう。
―― 小野氏は、始末に困つていた私の・けろく器の問題を、協会の記念集会の景品として幾百組かを発注することに依て、一挙に解決しようとする心づもりもあつての提案であつたかも知れません。
けろく器は、九月早々に出来あがつて、着荷したので、その中の一組を九月の研究会の折に披露したところ、みんなから見事な出来栄えであると褒められました。―― ただ、国内産の材料なので、手に取って素地の木質が少し軽いような感じがします。これが黒檀などであれば、申し分が無いのでしようけれども、それだと何万円も掛かるでしよう。
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