『明徳出版社の六十年と小林日出夫の想い出』小林眞智子編著
- 2022/08/13
- 10:03
(明徳出版社/2013年刊)
Y氏からの寄贈図書第三弾は、『明徳出版社の六十年と小林日出夫の想い出』である。
平成25年、明徳出版社の創業者である小林日出夫(1927~2007)の七回忌に同社創立六十周年を記念して刊行されたもので、300円という申し訳程度の定価がつけられているのは、当初有縁の方々に無償で配布することを企図していたものの、それでは書店に置くこと叶わず、同社の存在を知らない人々の目に触れる機会を持ち得ない為、やむなく定価をつけて流通に乗せたと編者あとがきにある。
だいたい出版社の社史の類というのは、読み応えのあるものが多くて、過去に新潮社や筑摩書房のものを読んで感心させられた記憶があるのだが、今回の冊子は取り扱う書物が東洋学関連ばかりの版元のものであるから、かつてないほど興味深く拝読した。
明徳出版社が安岡正篤氏の本を何冊も出していたことは知っていたから、何かしら関係を持っているのは薄々気付いていたが、創業者が父の代から金鶏学院で其の謦咳に接したこと、また安岡氏が結婚の世話をして子供達の名付け親にまでなったというから、まさに大恩人に当たる訳だ。
また、小林氏が出版業の傍ら母校である二松学舎の運営に携わり、平成7年から11年まで理事長も務めていて、漢学の総本山たる二松学舎に強い影響力を持っていたことも私は本書によって初めて知った。
鈴木由次郎氏が中央大学を定年退官された後、同社の応接室に鈴木易学研究所が開設され、その応接室こそ嘗て歴代首相等が安岡正篤氏を訪ねて指導を受けた場所であるというのも、同社が単なる出版事業者の枠に収まらぬことを物語る。
本書中、公田連太郎関連の出版事業(『易経講話』『荘子講話』)に関して寄せられた各界からの賛辞を拝読することは我ら易学徒には格別な感動を伴うが、こうして同社出版物の全貌を鳥瞰して湧き上がるのは、六十年に渡ってよくもまぁこんな売れない本ばかり出版して来られたものだという感動であり、憂国の志なくして到底出来る事業ではない。
これは事業というよりも一つの文化活動そのものと言うべきだろう。
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