海昏侯の『易経』
- 2022/11/22
- 18:44
『漢方の臨床』9月号に載った小曽戸先生の「海昏侯劉賀前漢墓出土の医工杯」を興味深く拝読した。
「海昏侯劉賀前漢墓」は2011年に江西省南昌で盗掘の発覚がきっかけとなって大々的に発掘され、多くの豪奢な副葬品が見出された前漢期の墳墓で、被葬者は武帝の孫の劉賀であることが判明している。
在位僅かに27日という短さは廃帝と謚されるに相応しい幸の薄さを物語るが、それはさて置き、小曽戸論文では出土品中「医工五/□湯」と隷書で記された漆器の杯など医学史料を主に紹介している。
同論文では内容には触れられていないが、五千本以上出土した竹簡には、『論語』『易経』『礼記』なども含まれているといい、武帝の孫の代であるから馬王堆帛書本よりは時代が下るとは言え、前漢期の古態を残す貴重な資料であると思われる。
中国の出土資料は全文公開までに相当時間がかかるのが常であるが、目下どの程度まで中身を拝むことが出来るのか、近日中にリサーチしてみたい。
ところで、同論文で一番興味を引かれたのは、写真つきで紹介されている木笥に入って見つかった冬虫夏草で、相当な量があるそうだが、冬虫夏草の本草書への記載は意外に汪昂(1615~1694)の『増訂本草備要』(1694)を待たねばならないので、こんな古くに大量に江西省にまで運び込まれていたというところには少々違和感がある。
或いはマジモンのシネンシスではなく、よく似た虫草(コウモリガに発生するものが真性の冬虫夏草で、それ以外は単に“虫草”と言って区別される)であろうか。
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