見えざる手
- 2023/03/09
- 18:19
『実業』1924年11月号に「易から観た支那動乱」と題した小玉呑象の時事占が掲載されているのだが、得卦も判断も詳細に記述されていて、ニセ高島ではないモノホン高島の高弟であった小玉呑象の後出しでない占を検討する格好の材料を提供してくれている。
「九月八日朝、支那の各方面に動乱の兆候があって・・・」で始まる此の小文は、第二次奉直戦争勃発直後に著わされたもののようだ。
生憎、支那の近代史に詳しくない為、ウィキペディアの奉直戦争の頁を参考にして検討してみたが、小玉呑象ほどの占筮家でも時事占となるとそれほどの成果を挙げ得ていないと言う他ない。
得卦は江浙軍が噬嗑上九、江蘇軍が履六三、奉天軍が復六五、直隷軍が大有九三、広東軍が睽六五である。
これを張作霖の奉天軍は容易に動かず、呉佩孚の直隷軍も「やはり乾坤一擲の大戦争を開始することは出来なくて奉天軍と同じく山海関の険に拠って容易に動かない、丁度両横綱が組合って少しも動かず、一度水が入って又組合って見たが、お互に力尽きて行司の引分に逢うという状況に推移して行くものである」と読卦しているが、ウィキペディアの記述によれば「1924年9月15日、張作霖は江浙戦争に呼応し15万の大軍を結集し、二方面から直隷派の地盤である山海関、赤峰、承徳へ進攻した。呉佩孚は「討逆軍総司令」に任命され、二十万の軍隊で応戦した」とあるから、大軍による全面戦争となっていて、この記事の載った11月号の時点で、既に悲惨な誤占となってしまっているのだ。
其の後、呉佩孚率いる直隷軍は奉天軍に敗れて華北に居た主力部隊は覆滅、第一次奉直戦争によって樹立された直隷派単独政権は崩壊し、翌年3月には孫文が病没して政権は奉天派の張作霖の手中に落ちている。
読卦によって第二次奉直戦争の行方を的確に読み得たとはとても言えまい。
ただし、戦局が長引くか存外早いかについては、「乾為天の九」を得て(九の後の爻位を示す数が抜けており何爻を得たのか不明)、説卦伝の「戦乎乾、労乎坎、成言乎艮」「乾爲秋、坎爲冬、艮爲終」から、乾の秋に戦って坎の冬に労れて互に鉾を収め、艮の終冬(十二月)に至って成言(和睦)するに至るの運命と断じているのは、当たらずとも遠からずだろう。
また、戦後では日米通信社の『ベストセラー』創刊号(1951年5月)にも小玉呑象の「アジアの首脳を易断する」と題した記事が載っていて、ネール・蒋介石・毛沢東・金日成・ホーチミン・吉田茂の六人の国家指導者に於ける51年後半の運命が占われている。
それぞれの年譜を検討して占の適否を判ずるのは面倒なので、やりたい人は各自年譜と突き合わせて楽しんで頂ければ良いが、注目すべきは此の記事の末尾が「ソ連は来年の夏崩壊します。私は卦を信じて疑わない」となっていることで、記事そのものは本人の筆でなく、『ベストセラー』誌記者の筆記によるものにつき、実際にここまで強い断言をしたのかどうかまでは判らぬものの、根も葉もないことは書かれないだろうから、やはり小玉呑象は1951年夏のソ連崩壊を予想していたらしい。
ただし、私は何も小玉呑象が名ばかりの凡庸な占者であったと難癖をつけたい訳ではないので、そこを勘違いされては困る。
私が注目しているのは、これまでにも散々書いて来た通り、時事占とはかく困難な占題であって、小玉呑象でさえ例外ではないという事実である。
もっと言えば、最近この現象の背景が見えて来たような気がしていて、時事占を事前に公開した際は、誤占が起こるような見えざる手が働いているという強い確信を持つに至った。
20年ほど前愛読した成瀬雅春氏の『魂を磨く』(この本は現在『シャンバラからの伝言』と表題を変えているが、精神世界の知られざる名著であると思う)を先日読み返していたのだが、著者の空中浮揚が写真撮影には成功してもテレビで公開撮影しようとするとカメラがおかしくなって撮影出来なくなるのはシャンバラの意向が関わるのだという。
書物の内容をかいつまんで説明する能力に乏しい為、詳しくは同書を手に取ってみて欲しいが、恐らく公開の時事占においても、シャンバラかどうかは判らぬが、人知を超えた存在が介入して予言を不成功に終わらせるのではないかという気がする。
それは、もし公開の時事占を的中させ続ければ、占術という裏の世界の知識が完全に表の世界のものとなることが確実だからではなかろうか。
つまり、的中が続けば、誰の目にもそれが未来予知の技術として機能することは明らかで、懐疑派は恐らく此の世から消滅することになる。
そうなれば、今度は其の占者に全世界からの人々が群がることになり、群がった人々は自身の主体的な判断を放棄して全ての事に占いを用いるようになるだろう(実際に、かかる占い依存症の患者など世に掃いて捨てるほど居る)。
これまで名を残す世界的予言者(占術ではないもっとサイキックなものを含む)の予言に的中を観ないものが幾らもあるのは、或いは上記のような理由があるのかもしれない。
だから、或る予言が的中したといって有名になりマスコミやらが一挙手一投足を注視するようになると、当然予言は当たらなくなる訳だ。
少し前、コロナ騒動を予言したといって印度人の少年が注目を集めたのは記憶に新しいが、其の後の予言が当たらないのは、少年がインチキなのではなく、やはり上記の力学が作用しているのだろうと個人的には思っている。
今日のは完全なる与太記事につき、笑って読み過ごして頂ければこれ幸い。
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