根本通明翁の貴様呼はり
- 2014/04/25
- 18:09
高島嘉右衛門、自ら易博士なりと称し、伏羲以来易理を究め得たもの、乃公一人であると言はぬ計りに吹聴してるが、根本通明翁には一目を置いて、時々易の講釋などを聴きに行く事がある。
處が根本老人、却々調子の高い先生で、大抵の人は貴様々々と呼棄にする、ツマリ貴様と云ふ語が口癖になつてるから溜らない。
横濱の大紳商、易学の大先生、呑象翁高島嘉右衛門と雖も、頭から貴様々々と扱き下されるので、殆んど閉口して、或時根本に「拙者も多少世間に名前を知られて居る、差向の時なら格別、稠人廣座の中で、貴様々々を續けられては少々困却仕る事もあるによつて、今後はどうか御見合せを願ひ度い」と、言入れた。
老人もなる程さうかと言って、如何にも感心した様子で、あつたが、談話が進むと、相變らず貴様々々を連發するので、高島も到頭匙を投げて了つた。
『最近社会百放談』長谷川善作編(1902年)135頁より
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