加藤大岳先生は、佐藤春夫先生の門下であった関係で文壇にも少なからぬ交流をもっておられた。
井伏鱒二(1898~1993)もその一人である。
井伏鱒二といえば、優れた随筆も多く、蒼流庵主人の好きな作家であるが、やはり本領は小説で、50年前に友人が食べた七面鳥の値段まで覚えているという驚異の記憶力に裏打ちされた細密な描写が有名であり、原爆を扱った代表作のひとつ『黒い雨』(1966年)は、その真骨頂を見せつけた傑作である。
そんな井伏鱒二の作品に『吉凶うらなひ』(1952年・文藝春秋社刊)という小品があって、井伏の作品の中ではあまり有名なものではないけれど、ここには加藤大岳先生をモデルにした加納大剛と、紀藤元之介先生をモデルにした藤川先生が登場する。
藤川先生はいまひとつ誰がモデルだか分かりにくいけれど、後半で大阪に移住するシーンになると、紀藤先生であることが明瞭になる。
本書は、1955年に『東京の空の下には』として宇野重吉主演で映画化された。
残念ながらDVDはおろかVHSにさえなっていないので、蒼流庵主人も未見であるが、とりあえず原作をお読みになることを勧めたい。
ルビの振り方にどうも変な箇所があるように思うが、井伏さんが易の素人だからだろうか。
なお、井伏が他人の有名でない作品をリライトして発表する剽窃の作家であることを暴いたのは、いまや東京都知事となった猪瀬直樹氏(人相学の知識がなくても判るくらい性格の悪そうな面構え)の『ピカレスク-太宰治伝』(2000年)である。
加藤大岳先生から筮のさばき方の指導を受ける加納大豪役の宇野重吉氏(右端)
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