『医心方の伝来』杉立義一著
- 2014/11/05
- 21:24
『医心方の伝来』杉立義一著(思文閣出版/1991年刊)
1991年に思文閣出版より刊行されて、現在は入手が困難になっている『医心方の伝来』杉立義一著は、複雑怪奇な『医心方』流伝の歴史を知る為の格好の書物である。
著者の杉立義一氏(1923~2006)は、医史学の大家として高名で、藤浪肉腫ウイルスや賀川流産術の研究に優れた業績を残され、『京の医史跡探訪』(思文閣出版/1984年刊)というハカマイラーのバイブルも著された。
今日ご紹介する『医心方の伝来』は著者の代表作であり、まさに日本医史学の金字塔と言うに相応しく、第4回矢数道明賞を受賞している。
本書は、『医心方』の種々の系統を調査して纏めたものであるが、その調査は徹底しており、著者の本業である産科医の片手間に、全国を踏査されている点、驚嘆すべきバイタリティとしか言いようがない。
『医心方』の写本は50点以上にのぼるが、もっとも重要なものは俗に半井家本と呼ばれるものと仁和寺本と呼ばれるもので、半井本は1982年に文化庁が27億円で買い上げ、84年には国宝に指定されて、現在は東京国立博物館の所蔵となっている。
半井家本は、正親町天皇より半井瑞策 (1522~1596)に与えられて代々半井家が秘蔵していたもので、その来歴はほぼ明確なものであるが、これに対しやや来歴の曖昧なのが仁和寺本で、著者はこの伝本にも多くのページを割いて考証している。
また、『医心方』の刊本は、万延元年(1860)に初めて世に出るが、その複雑な成立過程と江戸考証学派の涙ぐましいまでの努力も、本書を一読すればよく理解出来るだろう。
本書の出版から既に二十年以上が経過し、内容には更新を迫られる部分もあるようだが、『医心方』の研究に著者が果たした役割はあまりにも大きい。
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