『大坂名医伝』中野操著
- 2015/02/28
- 09:07
『大坂名医伝』中野操著(思文閣出版/1983年刊)
生まれ育った土地に対しては、自然と郷土愛というのが芽生えてくる。
医史学の分野に足を踏み入れて、最初に気になりだしたのは、やはり郷土の医家先哲であった。
しかし、大阪という土地は東京に次ぐ大都市のように思われているけれど、日本の中心地であったのは、わずかに豊臣秀吉の三日天下くらいのもので(遡れば大化の改新が行われた難波宮時代があるが、古すぎてどうにもピンとこない)、その経済規模こそ大きくても、医学を含め、学術は京都と江戸に集中していて、大阪にはパッとするものは意外に少ない。
とはいえ、探せば色々あるもので、大阪医学の目ぼしいものを丹念に掘り起こして纏めたのが、今日ご紹介する『大坂名医伝』である。
著者の中野操先生(1897~1988)は関西医史学界の大御所で、京都のお生まれらしいのだが、「大阪に住んで半世紀以上、生を受けた京都以上に愛着を感じる大阪で、近世から近代にかけて活躍した医学、蘭学の先人たちの足跡を追い求めることは、今や私のライフワークとなっております。」とあとがきに書かれているように、長年大阪に愛着を持たれて、その医学的関心が結実したのが本書というわけだ。
同分野で大阪と言えば、永富独嘯庵と緒方洪庵くらいしか普通は思い浮かばないだろうが、『和漢三才図絵』の寺島良安が大阪の人であったというのは、私は本書で初めて知った。
大阪に郷土愛を持たない他府県の方も案外面白い発見をすることになるかもしれない。
それに、どんなものでも郷土に愛着を持って丹念に調査された結果の書物は、読んでいて気分の良いものだ。
スポンサーサイト