『東洋医学』大塚恭男著
- 2015/03/16
- 21:34
『東洋医学』大塚恭男著(岩波書店/1996年刊)
漢方に興味があるのだが何か良い入門書は無いものか、という問いを受けることが時折ある。
ところが、日本で入手出来る入門書で、全くの門外漢相手に文句なく推薦出来るような本となると、残念ながら私には思いつかない。
そもそも、入門書を書くという作業は専門書を書くよりもはるかに難しく、凡庸な学者では到底書けるものではない。
ほとんど知識の無い相手に其の学問の概要と面白さを伝えるという作業は、かかる学術を相当に高度に究めているだけでは不十分で、其の学問と関連する諸分野にも相応に通じている必要がある。
さらには、記述の為の明晰な文体も要求される訳で、これらの条件を全て兼ね備えているような学者はどの分野にも少なかろう。
それに、少し興味を持ったという程度の人に薦めるには、入手が容易であることが大前提で、何十年も前の刊行で恐ろしい古書価が付いているような本が除外されるのは当然だ。
簡単な問いであるはずなのに答えるのは意外に難しい。
しかし、せっかく自分の学習分野に興味を持ってくれた相手に「I don't know」では申し訳ないので、本棚を見渡して選んでみたのが、今日ご紹介する『東洋医学』(大塚恭男著)だ。
本書は1996年に岩波新書の一冊として出たもので、著者の大塚恭男先生(1930~2009)は、昭和漢方の巨星・大塚敬節先生(1900~1980)の嫡男である。
タイトルは『東洋医学』となっているが、著者は湯液家であるから、当然、鍼灸は扱われておらず、湯液の解説も日本漢方に即した内容となっていて、その辺りがやや片手落ちなところもあるのだが、兎に角読みやすさと安価さとのバランスは悪くない。
処方の解説も病名漢方的で、ガチな漢方家なら言いたいことも色々出るような内容ではあろうが、相手が全くの門外漢ならこれくらいでないとスムーズには入って行けないようなところもあるだろう。
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