『漢方診療医典』大塚敬節・矢数道明・清水藤太郎共編
- 2015/04/08
- 18:17
『漢方診療医典』大塚敬節・矢数道明・清水藤太郎共編(南山堂/1969年刊)
『漢方診療医典』(大塚敬節・矢数道明・清水藤太郎共編)は、良くも悪くも昭和漢方を代表する書物と言って差支えなかろう。
明治期に国策によって壊滅に近い状態まで衰退した日本の漢方ではあったが、少数の漢方家により細々とその命脈は保たれてきた。
そして、昭和に入ると、漢方の復興運動が勃興し、古方派や後世方派が一致団結して、啓蒙が図られるようになって行く。
『漢方診療医典』は、その昭和漢方における啓蒙運動の結晶的な書物である。
本書は、元をたどれば『漢方診療の実際』(1941年刊)という一冊の書物で、此の時の初版では、古方派の大塚先生、後世方派の矢数道明先生、薬学の清水藤太郎先生に加え、後にフィリピンで戦死された折衷派の木村長久先生(浅田流)が共同で執筆に当られ、戦後の昭和29年には現著者の三名により同題で増補改訂が行われた。
その後、更に大幅な増補改訂を経て、1969年には表題が現在の『漢方診療医典』に改められた(蒼流庵蔵書のものは1984年の第5刷であるが、現在売られているものは矢数道明先生と大塚恭男先生による改訂が更に加えられているようだ)。
本書の最大の功績は、漢方の知識が全くない西洋医でも方剤を扱えるように記述を工夫して、漢方診療の間口を広げたことであるが、それは同時に西洋医学に屈服する形の病名漢方が蔓延することにも繋がった為、ガチな方証相対を標榜する漢方家にしてみると、本書は日本の漢方を堕落させた元凶という扱いになっているようだ。
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