『支那文を読む為の漢字典』田中慶太郎編訳
- 2015/08/21
- 21:19
『支那文を読む為の漢字典』田中慶太郎編訳(研文出版/1940年初版)
今日ご紹介するのは、漢文の上級者やプロに愛好家の多い辞書で、ちょっと通ぶりたい時にも書架に揃えて置きたい本だ。
本書は、ちょうど今から100年前の中華民国4年(1915)上海商務印書館で発行した陸爾奎/方毅共編の『学生字典』を邦文に翻訳して若干の増補を加えたもので、収録字数は僅かに8000字程度に過ぎず、網羅性などある筈は無いのだが、不思議な位に知りたい語義が収録されており、原書を編纂した二人の編者の力量が只ならぬものであることを感じさせる。
先に、長澤規矩也の『新漢和中辞典』を紹介したが、実はその長澤が自身の手になる辞典を除いて、唯一推奨した漢和辞典が本書なのである。
なお、編訳として田中慶太郎(1880~1951)の名が記載されており、本書の初版は田中の経営する文求堂から出ているのだが、実際の訳者は『紅楼夢』の翻訳で知られる松枝茂夫(1905~1995)という。
田中慶太郎は、明治から昭和にかけての漢籍販売業における第一人者で、静嘉堂文庫の中核となる古典籍を中国から買い取るのに尽力した人物なのだが、それ故、国宝級の古典籍を流出させたとして中国では一頃非常に評判の悪かった人らしい。
もともと、本書邦訳出版のきっかけは、田中が長年『学生字典』を愛用して来たことにあったらしいが、一昔前の漢学者の回顧録などで頻繁に名前の出てくる本屋だけあって、さすがに優れた眼力を持っていたことが窺われよう。
なお、本書は新本でも入手可能であるが、青蛙亭漢語塾というサイトでweb公開されている。
辞書の類はやはり紙媒体で座右に置いておきたいものだが、とりあえずどんな内容か興味のある方は、まずはこちらのサイトを覗いて見られるがよかろう。
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