『漢字の起原』加藤常賢著
- 2015/09/16
- 19:13
『漢字の起原』加藤常賢著(角川書店/1970年刊)
易経の解説などで、経文中の文字の字源を詮索することに重きを置くような書物が時折あって、先日読んだ本もその手の一冊だったのだが、これがまた我田引水極まる酷い代物であった(著者に情けをかけて書名を挙げることは控えよう)。
というよりも、この手の字源から説き起こしていく類の書物で、著者の試みが成功していると思えるようなものにはお目にかかったためしがない。
もっと気に入らないのは、類書の悉くが白川漢字学に依拠している点だろう。
白川静(1910~2006)といえば、夜学から叩き上げて独自の漢字学を築いた学者として名高い人物で、没後10年近くを経た今でも人気が高く、文庫や新書で読める著書も少なくない。
庵主が私淑した広瀬宏道先生(1925~2015)は、まだ無名に近かった頃から白川氏と交流があり、その漢字学にも随分傾倒されていたフシがあるけれど、この辺りは私には付いて行きかねるところがあった。
確かに、白川氏の漢字学は面白い。
その面白さは勿論その独創性から来るものなのだが、漢字の字源など土台物証に乏しい代物で、漢字の成立に殷周時代の宗教的、呪術的背景があるなどとする説も、白川氏の想像以外には強い説得力を持つ根拠があるとは言い難いようだ。
白川漢字学を「漢字版の梅原猛」と評した人が居るが、生前の白川氏が梅原猛と親交を持っていたことを最近知り、なるほどなと思った。
私が漢方を習った先生も、『字統』に始まる平凡社の白川字典三部作について、「労作」とは言っておられたが、ついぞ其の漢字学を引いて古典を解説されることはなかった。
以上のような理由で、やたらと白川漢字学が顔をのぞかせる書物を私は好まない。
今日ご紹介するのは、私が字源を知りたいと思った時に引く『漢字の起原』で、著者の加藤常賢氏(1894~1978)は、アンチ白川の漢字学者である(アンチ白川であるという理由で本書を選んだ訳ではないので念のため)。
本書は、許慎の『説文解字』に最も忠実な字源辞典で、他説異解や著者自身の説は『説文解字』に納得がいかない場合にのみ採用されている。
私は基本的に字源の詮索は重視しない立場なので、あまり引くこともないのだが、どうせなら本書のような王道路線のものを用いたいと思うのだ。
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