狩谷棭斎のこと

狩谷棭斎肖像

江戸時代の末期に考証学が盛んになって、宋学に偏っていた我が国でもようやく説文学が起こったが、その嚆矢は狩谷棭斎（1775～1835）で、文政10年（1827）には松崎慊堂らと説文会を発足させた。

棭斎は考証学の大家で、特に書誌学に優れたが、漢方を研究する上でも避けて通れない度量衡の研究にも打ち込み、その分野の著述は現在『本朝度量権衡攷』（全2巻）として東洋文庫に収められている。

また、渋江抽斎らの師でもあり、江戸医学館の考証学派にも影響を与えた。

森鷗外（1862～1922）は、史伝三部作の続編として棭斎を考えていたらしい。

棭斎の墓所は、かつて下谷坂本の天龍寺（現在は移転して足立区東伊興にある）にあったが、その後、巣鴨の法福寺に遷されたことを知り、2012年の7月に同寺を訪れたものの、境内にあった顕彰碑は東北の大震災で倒壊して無残な姿を晒しており、ハカマイラーをしていてこの時ほど悔しい思いをしたことは無かった。

ご住持の「もう少し早く来られていれば」の一言が実に堪えたが、今更どうにもならぬ。

墓碑は倒壊を免れていたのだが、残念ながら明治33年に累代墓として改葬されており、ハカマイラーとしての感動を味わえなかったのは二重に残念であった。