説文解字について
- 2015/09/20
- 18:51
許慎肖像
後漢の古文学者・許慎(生没年不詳)の『説文解字』は、漢字の字源にアプローチする際に、まず第一に紐解かねばならない書物とされている。
最も古い漢字字典であるから、これは当然だろう。
近代に入って、金石文や甲骨文字など、さらに古い資料が多く現れた今日では、『説文解字』だけに頼るという訳にも行かなくなったが、それでも一人の優れた学者が試みた漢字解説の最も古い記録であるという点で、その価値は依然として大きく、敬意を払うべきものである。
しかし、他の全ての古典がそうであるように、『説文解字』もまた許慎の手に成るそのままの形で伝世している訳ではない。
『説文』を生涯の研究対象として取り上げたのは、清代の考証学者・段玉裁(1735~1815)で、彼は『説文』の中に文字解説のある種の法則性を見出し、その法則に従って読めば、この書物を正しく理解することが出来、また後世生じた誤りをも正すことが出来ると考えて、詳細な注釈を附したが、これが『段氏説文解字注』で、所謂『段注』と呼ばれるものだ。
とまあ、ここまではちょっと中国の学問を齧った人なら誰でも知っていることだろうが、神田喜一郎先生(1897~1984)によると、通行の『説文解字』には、五代・宋初に出た徐鉉・徐鍇という二人の兄弟による整理の手が加えられており、この二人は立派な学者で、その整理の功は充分に認められるが、やはり整理は整理であって、今日から見て遺憾な点がないでもないという。
古典というものは、漂う古めかしさにただでさえ面食らうが、テキストの伝変にさえ時に一種異様な複雑さがあって、我々のような非専門家の理解を困難にしている。
文字を調べる為の字書にさえ、こんな複雑な事情が伴っているとは何やら恐ろしいことだ。
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