『中国史』宮崎市定著
- 2015/10/15
- 18:13
『中国史』宮崎市定著(岩波書店/1983年刊)
易学や漢方といった学術は、言うまでもなく中国に誕生してかの地で発展して来たものであるが、今日これらの学術を勉強している人々のほとんどが中国史の初歩的な知識さえ欠いているのは驚くべきことである。
易など当たればそれで良いのだとか、漢方は臨床の技術だから患者が治ればそれで良いのだとか、勿論それ自体は間違っていないし、当たらない易や患者がさっぱり治らない漢方など有害無益この上ないが、どちらもその理解を深める為に発展の歴史から紐解いて行こうとすると、中国史という大きな枠組みの中で捉える必要に迫られるものだ。
そこで、中国史に疎い大多数の易学家や漢方家の為に、『中国史』(宮崎市定著)を御紹介しようと思う。
著者の宮崎市定先生(1901~1905)は、制度史の大家として世界的な業績を挙げられた大学者である。
宋代の通貨制度や科挙、科挙の前身である九品官人法の研究などは偉大な業績のほんの一端に過ぎない。
本書は、京大退官ののち、70歳を超えてから纏められたものであるが、剛毅な文体、論理の展開、とても老学者の手になるものとは思えない力強い著述である。
また、延々と史実を書き連ねて行くだけの単なる通史とは異なり、本書は歴史学の方法を重視している。
上巻では80項近くを割いて歴史学について時代区分論を中心に著者の考えを述べ、持論である宋代近世説をも紹介しているが、無味乾燥な通史と違って、著者の色が強く出ている点に注意したい。
特に下巻の「むすび」は、著者の歴史に関する態度が簡潔明瞭に述べられていて、繰り返し読んで味わい深いものがある。
岩波全書版はしばらく品切れ状態だったが、今年5月には岩波文庫に収められたので、現在は容易に入手出来る。
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