『アジアの帝王たち』植村清二著
- 2015/10/26
- 18:25
『アジアの帝王たち』植村清二著(1956年初版)
植村清二先生の本で私が一番好きなのは、『万里の長城』と同じく中公文庫に入っている『アジアの帝王たち』だ。
本書はアジア史上に君臨した帝王九人の簡単な伝記を収載するが、始皇帝や康熙帝など中国の帝王は内五名で、残りはアショカ王やチムールなど南アジアや西アジアを統治した人たちである。
高度な文学性を以て叙述するスタイルの植村先生にとっては、こうした英雄伝の類こそ最も本領を発揮できる分野だろう。
当人も余程自信があったと見えて、子息である植村鞆音氏(1938~)が筆を執った文庫版のあとがきでは、初版出版時に語られた父親の言葉を引用して当時が回想されている。
「これはアジアの王さまたちの小伝記をまとめたものだ。中東の王さまの伝記は日本ではめずらしい。それに、秦始皇帝にしてもアショカ王にしてもそれぞれを研究している専門家はいるが、こういうかたちでまとめることが出来るのは、たぶん日本でおとうさんしかいないだろう。」
残念ながら、現在新刊で入手できる植村先生の本は、少し前にちくま文庫に入った『諸葛孔明』(1964年初版)だけのようだ。
これは根強い諸葛孔明の人気を反映した現象なのだろうが、私には『万里の長城』や本書のほうがずっと面白くて読み応えのあるものに感じられる。
かつてはどれも文庫で読むことが出来たものばかりだが、これらの盡くが絶版だか品切れだかになっているのは、現代日本の知識人(知識人と呼ぶに値するかは兎も角として)の中国に対する無教養を端的に物語っているように思えてならない。
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