『漢文研究法』狩野直喜著
- 2015/11/29
- 15:35
『漢文研究法』狩野直喜著(みすず書房/1979年刊)
これから漢籍を読んで行こうとする人だけでなく、漢方やら易学やらに手を付けたせいで、それなりに漢文に親しむことにはなったが学問体系としての漢文学には疎いという人に御薦めしたいのが、狩野直喜著『漢文研究法』である。
本書は、中学の漢文の先生たちを相手に、漢籍を読むのに必要な参考書を紹介した講演を主体にまとめられたものである。
敬愛する百目鬼恭三郎(1926~1991)の匿名書評の中に、本書を取り上げたものがあるので、今日はちょっと手抜きして(頭痛が酷いの)、以下引用にて紹介とさせて頂く。
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これを読んで驚嘆するのは、学殖に裏打ちされた著者の自信の深さである。
たとえば、『四庫全書総目提要』は、清代に勅命によって作られたという権威と、その規模の大きさからいって、一般に信をおかれている目録・解題書だが、狩野は、これに、漢学系の著述をほめ、宋学系のものはけなす、という偏りのあることを指摘し、それよりはずっと小型の『書目答問』のほうをすすめている。
また、漢籍は古典からの引用が多く、しかも典拠を示さないのがふつうだから、中国では、それを調べるために、故事熟語字典と百科事典を兼ねた類書とよばれる字書が古くから発達している。
類書というと、日本ではいまなお、浩瀚の『淵鑑類函』とか『佩文韻府』などを有難がっているけれど、狩野は、この二書は通俗であるときめつけて、小型であっても『芸文類聚』と『初学記』のほうをよしとしているのである。
狩野にかかっては、類書の中で最大の『太平御覧』でさえカタなしである。
狩野は、これを敦煌から発見された『修文殿御覧』の断片と比較して、『太平御覧』が『修文殿御覧』からつまみどりをしていて、原典に当たっていないと推断しているのである。
古典を読むための字書についての紹介で、『康煕字典』は「極めて出来の悪い」字書だから正しい訓詁を知ろうと思うなら使ってはいけない、などと忠告している個処は、当時にあっては、受講者たちを仰天させたであろう。
こうした学問上の自信は、弟子の吉川にもうけつがれているが、吉川の自信はやや高慢の風がみえた。
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