『御進講録』狩野直喜著
- 2015/12/02
- 18:54
『御進講録』狩野直喜著(みすず書房/1984年刊)
今日ご紹介する『御進講録』は、著者が大正末から昭和初頭にかけて先帝陛下の御前で行った御進講の草稿より文を起こして公刊されたものである。
狩野博士の御進講は、大正13年1月に始まり、昭和2年の9月・10月、昭和4年の11月と前後4回行われ、内容はそれぞれ「尚書堯典首節講義」「古昔支那に於ける儒学の政治に関する理想」「我国に於ける儒学の変遷」「儒学の政治原理」で、選ばれた主題を見ても帝王学としての儒学を講じられたことがよく分かると思う。
御進講の役を仰せつかるということは大変な栄誉であるが、天皇の地位が現在よりも遥かに高かった戦前にあっては、その栄誉に浴した感激は現今の我々には一寸想像の出来ないほどのものであったに違いない。
また、御進講はそれぞれの分野から当代随一の碩学が選ばれるものであるから、著者がまさに斯界の第一人者として扱われていた証左とも言えよう。
著者は緻密な文献考証を旨とする学風で知られるが、御進講はあくまでも陛下に儒学の大綱を把握して頂き実際の上に応用することの大事を御了解頂くのが主目的であるから、考証の過程は省かれて、多く結論のみが述べられているのだが、我々のような凡人には反ってこの方が解り易いと感じるところがある。
陛下の御前故、実にまどろっこしい程の敬語が連続して、これが聊か読書速度を減じさせるが、それを除けば儒学の入門書として中々の好著と言えよう。
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