『江南春』青木正児著
- 2016/02/13
- 18:45
『江南春』青木正児著(東洋文庫/1972年刊)
私の好きな中国紀行に、青木正児(1887~1964)の『江南春』がある。
恐らく、日本人の手に成る中国紀行中、最も優れたものではないかと思う。
著者は、京大で狩野直喜や幸田露伴に学んだ人で、それまで経学に偏りがちだった日本の支那学において、戯曲や小説、絵画といった分野の研究を開拓したパイオニアである。
本書は、大正11年、著者36歳の時に、江南つまり揚子江以南の地方を二ヶ月に渡って旅行した際の紀行で、一種幻想的とでも形容するほかない不思議な魅力に溢れている。
全篇に渡って異様な筆力が漲っているが、ハイライトは巻末で解説者(小川環樹)が“著者の学問と情熱がぴったり息が合って、みごとな絵巻となって展開される”と評した「揚州夢華」であろうか。
昨今書店に溢れかえっている浅薄な旅行記と違い、難しい漢字が矢鱈出てきて、現代人の軟弱な教養では取っ付き難いところもあるが、たまにはこういうのもいい。
本書は、「江南春」の他に「文苑腐談」「絵事瑣言」などの小篇が幾つか収められている。
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