『古書のはなし』長澤規矩也著
- 2016/07/17
- 12:44
『古書のはなし ― 書誌学入門 ― 』長澤規矩也著(富山房/1976年初版刊)
書誌学などという煩瑣な学問を庵主は好まない。
この手のアプローチは得てして枝葉末節に流れ、本筋を見失いがちになる。
とは言え、書誌学を無視した粗雑な研究は殆ど見るに堪えない。
そして、この読むに堪えない文章(研究と呼べる代物ではないが著者の肩書は面白いことに研究家となっているものも少なくない)がネットの世界には溢れかえっている。
また、悲しいことにかかる低劣な内容を低劣に感じない残念な方々が大勢居ることに驚かされるが、現代では読み手と書き手とは不可分の関係にあるから、これは当然のことやもしれぬ。
そういう残念な方々は縁なき衆生と考えてひとまず置くとして、今回は縁ある衆生諸氏方々の為に、書誌学の入門書として長澤規矩也の『古書のはなし』を取り上げることにする。
本書は反骨の支那学者・長澤規矩也が晩年に著したもので、装訂や刊本の種類、古書の鑑定法に印刷の歴史といった書誌学の基礎から図書館に対する自論までが展開されているが、著者の古書遍歴や島田翰(1879~1915)を始め様々な学者の逸話も差し挟まれていて、読み物としても中々に楽しい。
とはいえ、口絵以外には写真もイラストもない硬派な内容なので、この分野の初学者には些か取っ付き難いところはあろう。
一度目は軽く通読して、あとは必要に応じて参照するというのが本書との賢い付き合い方かもしれない。
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