『図書学辞典』長澤規矩也編著
- 2016/07/21
- 18:45
『図書学辞典』長澤規矩也編著(三省堂/1979年刊)
谷沢永一が「書物に関心のある方にとって必携」と言う『図書学辞典』は、長澤規矩也晩年の編著で、辞典といってもハンディなサイズだが、内容は実に濃く、通読するだけでも随分楽しませてくれる本だ。
副題に「和漢書誌学用語早わかり」とあるが、古典籍に関わる人は是非とも座右の書とされるが良かろう。
随所に炸裂する長澤節は痛快である。
“文献学”について、「わが国文学界では昭和初頭以来、書誌学とほぼ同じ意味に使われているが、正確ではない」とし、「わが国文学界で文献学の称を使うのは、昭和初頭に書誌学的研究を始めた池田亀鑑博士が、図書館界と全く没交渉であったからで、これに反して、漢文学界では私が、図書館界と密接な関係を作ったので、早くから、書誌学という称呼を使ってきたのである」といい、“写本”は「手書きの本。肉筆で記された本。」で「多くの国語辞書で、写した本と解いているのは誤り。写したのなら、底本(原本)があるはずで、又、刊本に対するものにはならない。」と筆刀両断である。
“古写本”については、「古い昔に手書きされた本。㊀江戸初期の慶長・元和までの写本。㊁文禄末年までの写本。という二つの考え方があるが、私は、一応文禄年間までの写本とし、慶長・元和の写本で年号がはっきりしないものは、慶元間写本と表現する。しかし、実際に処理するとき、そう正確に、文禄末年まで、慶長・元和間の写本と判定することは難しいので、不明確なものについては、新しい年代の方に決めるが、個人の蔵書目録などを編むときは、所蔵者に対する礼儀(?)の上から、古い年代の方にする。古鈔本。」と、ユーモアたっぷりに業界の裏事情を明かしている。
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