蒼流庵蔵書あれこれ~其の四~
- 2016/08/17
- 18:01
文庫に関して言えば、庵主は中公文庫のファンである。
結城昌治は、割に最近まで積読扱いだったのだが、暇つぶしに読みだしたら、簡潔で端正な文体に乍ち虜になってしまった。
ただ、文章があまりにスラスラ読めるので、それが反って作品から重厚感を奪っているような印象がある。
植村清二先生の本はどれも良い。
何といっても流麗な美文調の文体がかっちょいい。
自分もいつかああいう文章を書いてみたいと思う(無理だろうけど)。
アンリ・トロワイヤのロマノフ王朝三部作は、名著名訳の誉れが高いが、分厚さに怖気づいて恥ずかしながら未読のまま。
纏めて読んだこの中公文庫の宮崎市定シリーズが、庵主の中国学のベースの一つになっている。
この中では、『隋の煬帝』と『雍正帝』が好きだ。
中公文庫は、文芸も何というか通好みなラインナップで痺れさせてくれる。
林達夫や神西清の良さを解する人も今では少なくなったようだ。
近い将来「誰、それ?」なんて反応が返ってくる日も近かろう。
こうして見ると、やはり初期の肌色(?)の表紙の頃が一番品があって良かったという気がする。
カラフルな表紙になってからは、復刻増刷を除いて良い本が少なくなって来た感があるし、紙質も悪くなったようだ(値段だけは上がったけれど)。
倉橋由美子の新潮文庫シリーズ揃い。
このシリーズも何年もかけてチマチマ集めた。
集英社文庫の日本ペンクラブ名作選は、優れたアンソロジーで、編者も第一級の文学者ばかり。
特に丸谷才一、井上靖、吉行淳之介、中村光夫の編んだ巻は素晴らしい名篇揃いだ。
一昨年、城山三郎の『経済小説名作選』がちくま文庫から復刊されたが、この調子で他のラインナップも復刊して欲しいところ。
岡本かの子の『老妓抄』は世評の割にさっぱり分からない小説だった。
もっと歳を取るとその良さが分かるようになるのだろうか。
講談社文芸文庫は、近代日本文学の名作秀作の宝庫。
ただ、値段がえらく高い割に紙質がとんでもなく悪いのはいただけない。
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